日米首脳会談「成功」の舞台裏
トランプ氏は、いつまでたっても日本の対米貿易黒字を問題視し、これに固執している。ボルトン氏は自身の回顧録の中で、首脳会談に向けた準備段階で、トランプ大統領を相手にいかに苦労したか、一例として次のエピソードを紹介している(以下、筆者による英語原文の日本語訳)。
「トランプ大統領に安倍首相の訪米に向けて準備してもらうという、本来、シンプルなはずの業務ですら困難を極めた。この過程で、今後、表面化するだろう問題の兆候がすでに出ていた。私たちは首脳会談に向けて、大統領に事前の状況説明会を2回、準備した。
1回目の議題は北朝鮮と安全保障問題について、2回目の議題は貿易と経済問題についてだった。日米首脳会談の議題もこの順番だった。第1回目の説明会では本来、政治的課題に関して議論するはずだったが、状況説明会を聞きつけた貿易政策の関係者が会場を埋め尽くしていた。そこで、トランプ氏が遅れて到着した後、私から、『まず手短に貿易問題について議論したうえで、次に北朝鮮について議論する』と話したのだが、これが間違いだった。
トランプ氏はまず、『日本ほど良い同盟国はない』と前置きしたうえで話し始めると、1941年の日本軍による真珠湾攻撃について、不快感をもよおすほどの不平を語り始めた。説明会の雰囲気はどんどん悪くなっていった」
貿易黒字「問題」に固執するトランプ氏を、強固な日米同盟の路線に向かうよう御していたのが、安倍首相をはじめとする日本政府であり、ボルトン氏を含む米ホワイトハウスの政府高官らであった。日米間の協力・連携こそが、トランプ氏を導くうえで不可欠だった。
しかし、今やボルトン氏はもう政権を去った。彼の後継者は、ボルトン氏ほどトランプ氏に対して影響力があるわけではない。今やトランプ氏の周辺には「イエスマン」ばかりが目立つ。安倍首相も近く政権の座を去る。今後、トランプ氏を御せる人物がもはや見当たらないのである。
日本の最重要課題はアメリカ対策
日本の外交・安全保障政策上、中国や北朝鮮がもたらす脅威は深刻な問題だ。これらの国々への対応は、日本政府にとって実に悩ましい問題である。だが、それら以上に重要な課題がある。それはアメリカだ。この国こそ、日本にとって最も重要な関与すべき相手国である。
日本では、ややもすればこの当たり前の事実が忘れられがちではないか。今日の日米同盟の基盤を、当然の所与と考えるべきではない。それは日本政府が今後も一丸となって、必死に守り続けるべきものである。
ボルトン氏は、もしトランプ大統領が再選すれば、トランプ氏が日本に在日米軍駐留経費の大幅増額を求めてくる可能性を警告する。そして、もし日本がこれを真剣に受け止めなければ、トランプ大統領が在日米軍の削減や撤収の検討に進むリスクも指摘する。事実、2020年8月、米国の次期駐日大使に指名されたワインスタイン氏は、米連邦議会上院の公聴会で、「日本にはこれまで以上の責任を負ってもらうことを促す」と述べ、日本に安全保障面でより一層の貢献を求める意向をすでに表明している。