文春オンライン

『半沢直樹』コメディ路線の妻役・上戸彩。あの違和感こそがリアルな理由

急にホームコメディ路線になる違和感

2020/09/12
note

“銀行員の妻”のパブリックイメージ

 半沢のようなエリートバンカーの妻のパブリックイメージは、“インテリジェンスに富んだ上品美人”ではないだろうか。実際、劇中で花が参加していた「奥様会」に集っていたほかの銀行員の妻たちは、そういった女性像で描かれていたように思う。

 そんなパブリックイメージとあまりにかけ離れていることが、花が「浮いている」と言われる所以の一つとなっているのだ。

 

 ただ「浮いている」と違和感を抱く視聴者は多いだろうが、かといって花のキャラ、および花役の上戸彩の演技が不評を集めているという印象は少ない。製作サイドとしては、ストーリーの本筋に張り詰めた緊張感がありすぎるので、二人のシーンはあえてユルい演出でほっこりさせているんだろう。そうやって緩急をつけ、視聴疲れを起こらないようにし、視聴者離れを防ぐという意図があるのかもしれない。

ADVERTISEMENT

 さて、ここからがいよいよ今回の考察の本題。

 先にお伝えした結論のとおり、花のキャラや花と一緒にいるときの半沢に違和感を抱きがちだが、フィクション(虚構)のなかの異物はある意味“裏の裏”であり、それはとてもリアリティのある優れた人間描写なんじゃないかと思うのだ。

 そもそもパブリックイメージというのは、当事者以外の外野が勝手に作り上げたイメージ像にすぎないことは多々あり、必ずしも現実に即しているわけではない。また表向きはそのイメージどおりのインテリ上品美人と見られていても、家で夫や子供といるときの素のキャラは違うという方もいるだろう。

 筆者は恋愛カウンセラーとしてさまざまな家庭の相談を受けているが、その経験則からの肌感覚でよく感じるのは、エリートビジネスマン家庭のパブリックイメージと現実の乖離。

 外で気張っている分、家ではだらしない気の抜けた顔をしている夫。その夫の尻を叩きながら発破をかけ、明るく支えている妻。これってけっこうよくあるパターンなのである。

 もちろんエリートビジネスマンの全家庭がそうだと言うわけではないが、半沢と花のような関係性のエリートビジネスマン家庭は、一つの類型として確かに存在しているのである。特に円満な家庭ほどその傾向があるように思う。