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2020/09/11

カーディ・Bは生活費を稼ぐためストリッパーを経験

 カーディ・Bは、大衆音楽における「性的にポジティブなフェミニズム」の最先端と言える。人気ラッパーと結婚している彼女は、「WAP」において威風堂々とラップする。「私は料理しないし、掃除もしない/だけど何でこの結婚指輪をゲットできたか教えてあげる」。女性は男性を支えながら家事を行うべき、といった伝統的ジェンダー観を煽るように否定しながら、幸福な家庭と財産の両方を築いた成功、そして自身の性的魅力を誇っているのだ。

 貞操を重んじながら「強き父親と従順な母親のもと善き子が育つ」家庭観を掲げるキリスト教保守派からしたらたまったものじゃないだろう。

娘を抱くカーディ・B ©️getty

 カーディ・B自身の活動も興味深い。1992年に生まれた彼女は、生活費を稼ぐためにストリッパーとして働いたのち、ラッパーとして成り上がった経歴を持つ。「WAP」に代表されるような赤裸々な言動への嫌悪、性労働者やマイノリティ女性の代弁者やロールモデルとしての尊敬、その両方を一挙に受ける立場である。

 経済的に苦労してきたカーディは政治問題にも熱心で、トップスターとなった今では民主党の大統領候補ジョー・バイデン、および彼と争ったバーニー・サンダース議員との会談を行い、社会保障や政策について意見を交わす立場にある。

 それゆえ、同党のライバルである共和党員による「WAP」猛攻撃には政争も付随している。リベラルな民主党はこんなにも「堕落した性」を広める女を担ぎあげている社会悪なのだ、と主張するには持ってこいな話題だったわけだ。

「WAP」に凝縮されるアメリカ社会の不可思議

「WAP」論争は、日本からしたら特異にうつるアメリカのエンターテインメントの姿を映している。ポルノ的表現を行うヒット曲が多く、それがエンパワメントとして真剣に評価される土壌がある。それどころか、二大政党の関係者がヒット曲や芸能人に対する意見を表明し、メディアを騒がせる政治闘争が生まれることも珍しくない。

 まぁ、おそらく、多くの人が「政治関係者はヒット曲について喧嘩するのではなく社会問題を議論すべき」と思っただろうが……。

カーディ・B ©️getty

 そう考えるうちの一人には、保守派の反発は予想していなかったというカーディ・B本人も入るかもしれない。「怒ってないどころか嬉しい。彼らが語りつづけるほど数字は増えるから」。そう余裕を見せた彼女は、性の伝道師とばかりに、激怒してきた人々にアドバイスを与えるのだった。

「私はいつも人々に自信を持つよう勧めてる。とくにセクシャルなことに関して。官能的であることに抵抗を抱く人もいる。でも、保守派だとしても、みんなちょっと変わった欲望は持ってるでしょ? 誰でも。ムラムラしたりゾクゾクしたりするわけで。そのことを受け入れなよ。怖がるんじゃなくて」

注……文中の歌詞や関係者発言の訳は筆者によるものです。

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