国家危機の発生
彼らが真に自分たちの未払金の支払いを要求するつもりだったなら、初めから請求権協定に従って、彼らの国家を相手に訴訟を起こさなければなりませんでした。彼らが日本で日本政府と企業を相手に訴訟を起こしたことで、この国の名誉は大きく毀損されました。彼らの目的が未払金の支払い要求にあったのなら、彼らは盧武鉉政府が実施した補償で満足すべきでした。未払金の資料があるので、申請すれば受け取れたでしょう。彼らの未払金400~500円に対する当時の補償額は、80万~100万ウォンでした(1円=2000ウォン)。しかし彼らは、それで満足しませんでした。それで2018年まで執拗に訴訟を続け、ついに21年ぶりに1億ウォンを取得できるかも知れない大きな成功を手にしました。
原告たちの繰り広げた嘘の行進は、決して一人ぼっちの心細いものではありませんでした。多くの社会運動家と歴史家たちが、それに加わりました。彼らが日本で敗訴したというニュースが届くたびに、韓国人の種族主義的怒りは沸き上がりました。嘘の行進はますます膨らんで、国民的パレードに変わって行きました。当初彼らが起こした日本での訴訟は、日本のいわゆる“良心的”知識人によって企画され、支援されました。今日両国の関係がこれほど険悪になっているのにも、彼らの“良心”が大きな役割を果たしました。彼らの“良心”は、結局は韓国人の“非良心”を助長しました。彼らの“良心”を引っくり返せば、そこには、二等民族韓国人をいつまでも世話しないといけない、という傲慢な姿勢が根を張っていることが分かります。
国内外に繰り広げられる嘘のパレードを、いつまでも続けさせるわけにはいきません。遅かれ早かれ国家の危機を招来するだろうということは、すぐに予想がつきます。私にとってここ数年間というものは、そのような危機感の連続でした。2018年10月末の大法院の判決が、その起爆剤でした。2005年から国内で起こされた原告たちの訴訟は、地方法院(日本で言う地方裁判所)と高等法院で敗訴しました。彼らを復活させたのは、2012年の大法院判事金能煥(キムヌンファン)でした。報道によると彼は、「国を再建する心情で」事件を高等法院に差し戻したそうです。この言葉が、一国の法秩序と国家体制を守護すべき判事たる人の口から出てもよいものでしょうか。私には納得できかねます。彼にとってこの国の歴史は、唾棄すべき“不義と機会主義者が勢力を持った歴史”に過ぎなかったようです。
2018年10月末に出た大法院の判決文が、歴史意識と法理においてどれほど脆弱であるかに関しては、朱益鍾博士が書いたこの本の第8章を参考にしてください。朱益鍾博士は、この判決について「触れればすぐに倒れてしまう“きびがらの家”に過ぎない」と記しています。「この国の大法院の拭い去れない“黒い歴史”だ」とも記しています。我が高邁な判事や法学者の皆さんに、必ず読んで勉強してほしい貴重な内容です。一体何をどうしたら、このような悲劇的な判決を下すことができるのでしょうか? この本の第16章で指摘しましたが、ここで再び思い起こします。この国の法律家たちの歴史意識は、ひと言で言って大きな空白です。第16章では、この国の法制度が近代化した歴史に対する理解が法学教授や若い検事に欠如していることを、その証拠として挙げました。