治まらない痛みに、医師の診断は…
帰宅してシャワーを浴びてベッドに横になる。寝ている分には痛みは感じないが、起き上がる時に、痛みを感じるポイントを瞬間的に通過する。
色々と試しているうちに、仰向けの状態からごろんと転がってうつ伏せになり、四つん這いを経て立ち上がることで、痛みのポイントを通らずに立ち上がれることを経験的に見つけ出した。
自営業者のOさんは基本的に年中無休だ。その仕事は、やろうと思えば横になったままでもできる軽作業なのだが、「いつまた痛みが来るかもわからない」という大義名分を盾にして、その日は臨時休業とした。横になったまま本を読み、器用に缶ビールを2~3本飲んで寝てしまった。
翌31日は月曜日。背中にはまだ痛みの余韻が残っている。痛みの長期化を覚悟したOさんは、朝一番で近所の整形外科クリニックを受診した。
エックス線撮影と超音波検査が行われ、医師はこう診断した。
「ぎっくり腰の“背中版”のようなものでしょう」
「原因は分からないが痛い」
Oさんのこの話を、国際医療福祉大学三田病院整形外科脊椎・脊髄センターの磯貝宜広医師に解説してもらった。
「“急性の背部痛”と呼ばれるもので、原因が分からない背中の痛みの総称です。ぎっくり腰(急性腰痛症)ほどではないものの、決して珍しい疾患ではありません」
痛みの部位に関係なく、急性の痛みを訴える患者が医療機関を受診した時は、重大な病気から疑って調べるのがセオリーだ。背中に痛みを引き起こす重大な疾患といえば、Oさんも頭をよぎった心筋梗塞や大動脈解離がある。
心筋梗塞は、心臓の血管に血栓が詰まって血流が途絶える病気。大動脈解離は、心臓から全身に血液を送る大元の血管である大動脈の膜がはがれて、その隙間に血液が流れ込んで血管が割けていく病気。いずれも命に関わる重大疾患であり、その症状の一つに「背中の激痛」がある。
「心筋梗塞なら心電図で分かるし、大動脈解離には左右の腕の血圧が揃わないなどの特徴的な所見があります。いずれも大半は救急搬送になるので、Oさんを診た医師はそのリスクは低いと判断したようですね。他にも胸椎の骨折や首の神経根症などで背中に痛みが出ることもありますが、現実的には背中の痛みの診断は問診で9割方見当が付くもの。Oさんが受けたエックス線と超音波検査は、背部痛、つまり、大きな心配はないことを裏付けるための検査だったのでしょう」(磯貝医師、以下同)