背部痛とは、背中に痛みがあるものの、内臓疾患や骨折などの異常が見られないときに下される診断――。早い話が「原因はよく分からないけれど痛みはある」という病態だ。
ゲノム医療やら重粒子線治療やらロボット手術やら、高度に進化した現代医療をもってしても、原因が特定できない症状はいまも数多くある。背部痛はまさにその代表格なのだ。
痛みが起きている時に血液を調べても炎症成分が劇的に増えているわけではない。筋肉の状態をMRIで調べても特に変化は見られない。色々な仮説は立てられるが、それを裏付ける証拠が見つかっていない疾患なのだ。
症状が比較的早く治まる背部痛
ただ、様々な検査で重大疾患の存在が否定されたあとの背部痛であれば、大きな心配はない、と磯貝医師はいう。
「たとえ原因は分からなくても、痛みがあるなら痛みさえ取ってしまえば、とりあえずは勝利です。痛みが我慢できないなら痛み止めの薬を使って様子を見て、痛みがなくなれば薬をやめればいいだけのこと。そもそも背部痛は発症から1~2日で症状も治まります」
事実、Oさんは発症の翌日、整形外科から帰宅した日の夕方には、嘘のように痛みが消えてしまった。長期化を覚悟していただけに、少し恥ずかしそうだ。
「症状が比較的早く治まる点が背部痛の特徴でもある。1日か2日で痛みが治まるので医療機関を受診する割合も低い。その点ぎっくり腰は、強い痛みが数日間持続するので医療機関を受診することになる。背部痛が、“ぎっくり腰ほどではないものの決して珍しい症状ではない”というのは、そうした理由によるものです」
では、こうした突然の背部痛を起こした時、どう対処すればいいのだろう。
「背部痛の対処法は“安静”につきる。何もしないでいることが回復への近道。逆に、やってはいけないこともハッキリしている。飲酒、入浴、運動です。これは背部痛に限ったことではなく、急性の痛みがある時に“血の巡り”をよくしてしまうと、痛みが大きくなるだけです」
横になったまま、いしいひさいち画伯の描くヒロサワみたいな口をして器用に缶ビールを飲んでいたOさんの無駄な苦労がしのばれる。