次の首相になろうかという菅義偉は、「自助・共助・公助」が国の基本だという。聞こえはいいが主張の核心は「自助」だろう。
さかのぼれば、99年に小渕内閣の経済戦略会議が「個々人の自己責任と自助努力」をベースとする競争社会への変革を提言する。このとき公助(セーフティネット)もセットで言及されたが、結局は自己責任と自助努力が過度に求められる社会に向かっていった。
この経済戦略会議に竹中平蔵はいた。その後、竹中平蔵は小泉政権に入り込んで構造改革や規制緩和を推し進め、非正規雇用を増大させるなど、社会の様相を変えていく。
そんな竹中平蔵の評伝に、佐々木実『市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像』(講談社・2013年 文庫改題『竹中平蔵~』)がある。本書は、大宅壮一ノンフィクション賞や新潮ドキュメント賞を受賞するなど評価が高いことにくわえて、佐々木実が取材によって掘り起こした、あるエピソードが載ることでも知られている。それはどんな逸話か。
竹中平蔵のズルさ
――竹中平蔵が初めての著書を出版するのは33歳のときのこと。それによってサントリー学芸賞を受賞する。ところがそこには他の研究者と共同でおこなったものも取り上げられているのだが、「共同研究に基づくものであるという事実が、巧妙なやり方でぼやかされ」、竹中個人で行ったものであるかのようになっていた。成果をひとり占めされた共同研究者はその著書を見て、泣きだしたという。
本書に収められた数多くのエピソードのなかでも、これが特別ウケたようで、ネットでたびたび取り上げられている。それはなぜか。石井妙子『女帝 小池百合子』のマニキュアの話がそうであるように、ここに人物の本性が端的に出ているからだろう。それはひとびとが日頃から漠然とおもう、竹中平蔵のズルさだ。