先日、久しぶりに新橋の馴染みの居酒屋に顔を出した。そのお店は新橋でも老舗の名店。店は少しでも話題になって儲かると、次々と新たな店を出していくものだが、家族経営のその店は新店舗には一切興味を示さず、これまで堅実に経営してきている。
店で供される魚の旨さは、新橋広しといえどこの店の右に出るものはない。
そうした評判からか、店は繁盛を極め、事前に予約をしないと席の確保は難しい。ただ気さくで美人の女将さんは、なるべく多くのお客さんに席が確保できるように計らってくれるし、第一陣の客が帰る夜8時をすぎる頃には、入れることが多いので、時折フラリと暖簾をくぐっていたのだ。
ピークの時間帯に客はわずか1組
世の中コロナ禍である。しばらく新橋から足が遠のいていたが、魚好きの大切なお客様との会合だったこともあり、なんとなく気になって覗いてみることにした。予約をしてみようと前日電話すると、『おや牧野さん、久しぶり! 空いてますよ!』と店のお兄さんの威勢の良い声。
やはり影響があるのだろうなとの心配が頭をもたげる。
さて当日、7時、いつもならピークの時間帯。ガラッと引き戸を開けると、驚愕した。店内の客はわずか1組。『はい、いらっしゃい!』威勢のよいお迎えはいつものことなのだが、いつもならばその声が霞んで聞こえないほどの店の賑わいがないのだ。
その日、延々と飲み続けた私たちは、結局店を後にするまで、3組の客を見ただけに終わった。コロナ前の『密』ぶりに比べれば、感染症対策で座席数を減らしているのなんて全く気にならないほどのディスタンス確保だった。
美味しい魚を持ってきた女将に状況を聞くと、彼女は小さく溜息をつきながら
『そうなのよ。大変なんです。5月末に緊急事態宣言が解除された時にはずいぶんお客様が戻ってこられたのですが、7月の感染拡大でまたパタリとお客様が来なくなってしまいました』
そういえば私が前に来たのも5月末だった。恐る恐る
『お店大丈夫なの?』
と切り出すと
『この3ヶ月は補助金や家賃給付でなんとか凌いで来たけど、あと数ヶ月、この状態が続いてしまったら、正直持たないかもしれません』