都心のお盆休みのこの時期は、去年までなら山手線に乗って、お気楽に冷がけそばを食べ歩いていた。2020年の夏も、懲りずに同じような生活をしているのだろうと思っていた。ところが、現実の2020年の夏は、まったく違う世界になっている。

 大衆そば・立ち食いそば屋は不景気に強いと言われていた。しかし、今回ばかりは事情が違う。コロナ禍による売り上げ激減により、今や危機的状況となっている。都心の大衆そば・立ち食いそば屋では、いま何が起きているのだろうか。

 そこで、“感染第2波”が拡大した2020年のお盆休みの8月7~12日、感染防止に配慮しながら、都心の店をいくつか訪問してみた。すると、コロナによる様々な影響を受けていることがわかってきた。

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近年にない「立ち食いそばの閉店ラッシュ」

 今年6月までに、多くの大衆そば・立ち食いそば屋が閉店した。青砥の「青砥そば」、豊洲東雲の「てっちゃん」、田町の「丸長」、春日の「源太郎そば」、六番町の「ゆで太郎」、秋葉原の「六文そば 昌平橋店」、米原駅の「井筒屋」など。自由が丘などの「そば新」もすべて閉店した。これらが第1波の閉店といってよい。

 高齢化による営業存続の限界、不動産老朽化や契約完了による立ち退き、もともと薄利経営であったなどの構造的問題が背景にあったわけだが、コロナの“第1波”がきっかけになって、閉店に追い込まれた店も多いようだ。

(1)浅草橋「ひさご」で聞く“売り上げの回復感はどのくらい?”

 では緊急事態解除後の売り上げはどうなっているのだろうか。まず、浅草橋の「ひさご」に2ヵ月ぶりに訪問した。店主の八ちゃんは元気そのもの。一年中冷しそばうどんを食べることができるのだが、真夏のこの時期の「冷し天ぷらそば」(370円)は至高の一杯である。出汁がぐっと感じられる濃いめの冷たいつゆに自家製の冷したそばが泳ぐ。自家製の油切れの良い天ぷらも秀逸である。

浅草橋の「ひさご」は元気に営業していた
店主の八ちゃんは元気そのもの
「冷し天ぷらそば」(370円)は至高の一杯である
「ひさご」はそばもつゆも天ぷらも自家製の狭小の店である

「世界一うまい」と叫びながら食べつつ、解除後の売り上げの回復具合について質問すると、即返事が返ってきた。

「緊急事態が解除されても、売り上げは戻ってないよ。だいたい人がいないからね」

八ちゃんからのメッセージに感激する

「ひさご」では4、5月も営業自粛はしなかったそうだ。解除後も売り上げは前年同月比で60〜70%、解除前後であまり変わらないという。近隣に中小企業や商店が多く、来店客はほぼ常連というわけで、テレワークなどの影響を受けにくい地域ということのようだ。中小企業や商店、居住地域が隣接する店はどうにか持ちこたえているといえるかもしれない。