立ち食い・大衆系そば屋にはあって、老舗・町そば・手打ち系そば屋ではほとんど御目にかかれないそばの具材がある。「春菊天」と「コロッケ」である。「春菊天」はまた後日触れることにして、今回の話題は「コロッケそば」。柳家喬太郎師匠の「時そば」の枕にも登場する「コロッケそば」にハマっている老若男女は意外と多いようだ。

 文明開化とともに伝来した「コロッケ」は大正時代では高級洋食であり、あこがれの食べ物だった。「クリームコロッケ」と「ポテトコロッケ」が当時からあったようで、「ポテトコロッケ」はその後、精肉店の人気総菜として大衆化の道を一気に進んでいった。

(1)そもそも「コロッケそば」はいつ誕生した?

「ポテトコロッケ」をパンに挟んだ「コロッケパン」は、昭和2年の銀座の精肉店「チョウシ屋」が発祥とか。「コロッケそば」が誕生したのはその約40年以上も後のことである。戦後の冷凍食品の普及が密接にかかわっているようだ。

ADVERTISEMENT

 1960年代に入ると冷凍庫付き冷蔵庫が登場し、1964年の東京オリンピックの頃には冷凍食品がだいぶ普及していた。昭和40年代に入ると、給食や外食でコロッケやフライの業務用冷凍食品が浸透し、フライヤーで手軽に大量のコロッケを扱えるようになった。天ぷらを揚げていた立ち食いそば屋でも、「人気のコロッケを揚げてそばに載せたらうまかった」ということになったようだ。

 大阪の「潮屋梅田店」では昭和44年頃からカレー味の「コロッケそば・うどん」を販売していたという。

 (株)小田急レストランシステムが経営する「名代箱根そば」では昭和40年代、下北沢店のオープン時に「コロッケそば」を初めて導入したという。当時は約30gのカレーコロッケ(ひき肉・春雨入り)が2個入っていたという。この2個入りの「コロッケそば」は下北沢店で食べた記憶がある。最初に食べた時、「あっ、カレー味だ」と驚いたわけである。

名代箱根そば四谷店で冷やしコロッケそばを食べる
コロッケはなんとカレー味である。うまい

「六文そば須田町店」の大将の鈴木社長の話によると、「六文そば」でも創業当時から、冷凍コロッケを仕入れて販売していたという。「アジフライやコロッケの冷凍食品ができて、調理のし易さが格段にアップして、人気になった」という。「六文そば」では昔ながらのポテトコロッケを今でも提供しているという。

六文そば須田町店の渋い店構え
六文そばでは昔ながらのコロッケにこだわっている

 

(2)なぜ立ち食い・大衆店の「コロッケそば」はうまいのか?

 では、なぜ立ち食い・大衆店の「コロッケそば」はうまいのか。これには諸説あると思うが、もちろんコロッケの品質が向上したということもあるとは思う。だが本当の理由は、次の一点に尽きると思う。