今回の「山健組分裂」の背景についても、このように解説する。
「そもそもカネの問題があったが、ガタガタし始めたのは山健の(若)頭が刺された事件あたりからだったのではないか」(同前)
幹部が言う「山健の頭が刺された事件」とは、2019年4月、神戸市内の路上で山健組若頭の與則和が刃物で切り付けられた刺傷事件を指す。事件後、山口組弘道会系組員2人が出頭した。
「通常であれば親分がやられたら、與の若い衆が返し(報復)を行うというもの。しかし、この事件後、與が率いる與組では誰も動かなかった。これも不思議なことだった。そのためなのか、返しを実行したのは(山健組組長の)中田だった。親分自ら動くことなどあり得ない。不自然なことが次々と起きた」(同前)
中田が勾留されているのは、この“返し”のためだ。中田が若頭である與の事件の報復として弘道会系組員を銃撃したのは2019年8月のこと。同年12月には殺人未遂容疑で逮捕された。
ちなみに当の與則和は今回、神戸側から独立した中田と行動を共にしなかった。中田が神戸側に残る傘下団体に下した処分のうち、與は「絶縁」となっている。
池田組若頭銃撃でも……
この事件同様、神戸山口組系の幹部が襲撃されたまま報復がない事件は、他にも発生している。
2016年5月、岡山市内で神戸山口組系池田組(当時)の若頭、高木昇が射殺される事件が発生。弘道会系組員らが逮捕された。今年5月にも、同じ池田組の若頭、前谷祐一郎が銃撃され重傷を負った。事件を引き起こしたのは山口組系大同会幹部で後に逮捕されている。いずれの事件も、池田組からの報復はなかった。
こうした経緯について、警察当局の幹部が「(神戸山口組組長の)井上(邦雄)が止めたようだ」と指摘する。
「池田としては自分のところの頭を撃たれたのだから、当然のこととしてやり返したかっただろうが、井上は報復を許さなかった。警察としては抗争が起きないことは歓迎すべきことだ」(同前)
別の警察幹部は「山健組の頭が刺された事件の返しで、中田本人が報復の実行犯として銃撃した事件を聞いた井上は激怒し中田を叱責したようだ」とも指摘する。
さらに、前出の指定暴力団幹部が解説する。
「井上がダメだと言ったとされているが、表向きは『分かりました』と返事をしておいて、返しをしておく。それで『若い衆が勝手にやりました』と言っておけばよかった。やられたのは末端の組員でなく、組織のナンバー2の若頭。それが2回ともなると、何もしない池田組はそれでいいのかと、業界内で器量が問われかねない。池田組としては憤懣のやりどころがなかっただろう」