ちなみに同社は東京五輪、北京五輪に向け、アジアでのマーケティング強化を行っているが、ハイチにルーツを持つ大坂、NBAでワシントンウィザーズに所属する八村塁、陸上のケンブリッジ飛鳥などを使った広告を検討していたという。今回、全米オープンでの大坂のコート内外での活躍を受けて、大坂を使用した広告展開に至ったようだ。
米企業が求める「若い世代からの理解」
今回のナイキの大坂の広告は日本語のみで、世界展開はされていないが、大坂が試合後のインタビューで「みんながこの問題について考えるきっかけになってほしい」と話しているように、日本人がBLM運動について考える機会になったのではないだろうか。
ナイキだけではない。5月末にミネソタ州で黒人男性が白人警官に首を圧迫させられて死亡した事件をきっかけに米国全土でBLM運動が広まると、多くの企業が人種差別に反対し、また黒人コミュニティや同じように苦しんでいる人たちへの支援をすることを次々と発表した。そのスピード感は目を見張るものがあった。
アップル、アマゾン、マイクロソフト、ウォールマート、Facebook、マクドナルド、ナイキ、アディダスなど誰もが知る大手企業はもちろんのこと、若者に人気のゲームコンテンツの会社やオンラインショップ、またトヨタやホンダ、日産などの日系企業も名を連ねた。
あえて反人種差別の姿勢を明確にしたのは企業としての役割や責任などに加えて、今回の運動を牽引している若い世代の理解を得ることも大きな理由にある。
コロナの影響で、30歳以下の世代がSNSに割く時間が大幅に増え、今までよりもニュースに目を向けるようになったというリサーチ結果が出ている。またその世代は企業の姿勢や考え方なども重視し、それを購買活動に結びつける傾向がある。それを受けて、多くの企業がBLM運動や反人種差別にも敏感に、そして迅速に対応したと言える。
大坂は全米オープン前からBLM運動に熱心で、抗議のデモに参加したり、SNSなどで問題提起を行っていた。
ハイチ出身の父親、日本出身の母親を持ち、幼少時から米国で暮らしてきた彼女が、これまで数々の差別を感じてきたことは想像に難くない。SNSの言葉の端々からこれまで感じてきた理不尽さ、悲しみが窺える。
コート外だけではなく、コート内でもBLM運動への姿勢は変わらなかった。