「今、すっごい楽よ。本を書いて全部さらけ出したから隠しごとがないでしょ。こんなに楽なのか〜って感じよね」
我々を出迎えてくれた高知東生さんは開口一番、晴れ晴れとした顔で言った。
2016年6月に覚醒剤と大麻所持容疑で逮捕されたことをきっかけに薬物依存症の回復プログラムに取り組んでいる高知さんは現在、依存症全般の啓蒙活動に取り組む日々だ。
また、暴力団の組長の息子として成長し、高校生の時にはその愛人でもあった母が謎の自殺でこの世を去るなど、壮絶な過去を背負ってきたことを9月に発売した自伝『生き直す』の中ではじめて明かした。
「痛みすぎて封印していた」という高知さんの生きづらさについて聞いた。(全2回中の第1回/第2回を読む)
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気前のいい「美人のおばちゃん」が、実は母親だった
「僕は小学校高学年までずっと祖母に育てられてきて、両親はいないと言い聞かせられて育ったんです。
家には祖母の息子、つまり僕の叔父にあたる家族も一緒に暮らしていて、いつも肩身が狭かった。学校では親がいないことでいじめられたこともありましたが、やられたらやり返すような子どもだったので、今度はそれを聞きつけた叔父に叱られて家から締め出されたりして。自分には居場所がないとずっと感じていました」
何かに期待しても叶うことはなく、「僕が悪い子だからいけないんだ」と自分を責めた。一生懸命育ててくれている祖母の手前もあって寂しさを隠し、愛されたいと願う気持ちは決して口に出さなかった。
しかし、そんな状況が小学5年生のときに一変する。きまぐれに祖母を訪ねてやって来ていた気前のいい「美人のおばちゃん」が、実の母親だったことが判明。高知さんはやっと実母と暮らせることになるが、思い描いていた母親像とは大きくかけ離れていた。
「母親がいたことがわかって嬉しかったけど、実際一緒に住んでみたら、もう逃げ出したいくらい最低な大人でした。
テーブルの上にお金だけ置いて2、3日は平気で家を空けるし、夜中に酔っ払って帰ってきたと思ったら『タバコ買ってこい!』と命令する。とにかく毎日、酒臭い。
さらに一緒に暮らし始めてしばらくした後、いきなりキャバレーに連れて行かれたと思ったら、そこにいる男の客を紹介されて、『この人がお父さんよ』と言われました。
その人は中井啓一という土佐の有名な侠客で、母は愛人だったんです。もうめちゃくちゃですよ。後に彼も本当の父でなかったことがわかるのですが、正直、ここで捨てられてしまったら、今度はどこに行かされて、そこでなにを言われるのかという恐怖が常にありました。だから子どもの頃は一生懸命、周りの大人の顔色を見て、自分の居場所を探していました」
寂しさを心の奥底に秘め、生き抜くために病んだ大人たちの間でいい子に振る舞う。幼い子どもが取らざるを得なかった“生存戦略”に胸がひどく痛む。高知さんは生まれてからずっと家のなかに安らげる場所がなく、「機能不全家族の中で育った」と振り返る。