この地球上に、海底に沈んだ謎の大陸がある――。
そう言われても、伝説やおとぎ話の類だと思う人がほとんどかもしれない。だが、本当に「謎の大陸」が南太平洋に沈んでいて、今では世界中の国立研究機関や著名大学の科学者たちが国際研究チームを組織し、日夜真剣にその謎に迫ろうとしている……と聞いたら、どうだろうか。JAMSTEC(国立研究開発法人・海洋研究開発機構)に所属する私も、実はそのメンバーの一人だ。
海底に沈んだ大陸は、名前をジーランディアという。元々はオーストラリア大陸の東側にあったと考えられ、現在はニュージーランドやニューカレドニアなどの島々をわずかに残して、ほぼすべてが海底に沈んでいる。
2300万年前に沈んだ大陸
沈んだ時期は良く分かっていないが、どうやら8500万年前という途方もない昔から沈降を開始し、2300万年前にはほぼ完全に水没してしまったようだ。これは人間が地球上に現れるよりも前の話。この大陸は数々の謎を秘めながら、今も海の底で眠り続けている。
しかし、そもそも「海底に沈んだ大陸がある」などとどうして分かったのかと、疑問に思う人も多いかもしれない。これを理解するためには「大陸」とは何か、普通の海底とは何が違うのかについて、知っておかなくてはならない。
大陸と海底は“岩石の種類”が違う
普通に考えれば、大陸とは「大きな陸地」のことだと思うだろう。しかし、地球科学の分野では、大陸は必ずしも海の上にある(=陸地である)必要はない。たとえば大陸の端っこに、こんな場所があると想像してみてほしい。そこは潮の満ち引きによって一日のうち何時間かは陸地、残りの何時間かは海の下となる。では、ここは大陸の一部だと言えるだろうか?
そこで判断の材料とされるのは、表層部を覆っている土砂などを取り除いたときに見える、その土地を作っている岩石の種類である。大陸を作っている岩石は花崗岩と呼ばれる白っぽい岩石だが、海底を作っている岩石は玄武岩などの黒っぽい岩石なのだ。上記のような場所であれば、土地は白っぽい花崗岩でできていて、大陸の一部であると言えるはずだ。