指揮官の一言が若者たちの胸に突き刺さった。「このチャンスにレギュラーをとっちゃえ! そのつもりで行け」。
新型コロナウィルスの影響で大幅な一軍と二軍の入れ替えを行い挑んだ10月6日のバファローズ戦(ZOZOマリンスタジアム)。試合前に行ったベンチ前の円陣で井口資仁監督が野太い声で一軍に合流した若い選手たちに向かって、そう伝えた。
元々は円陣であまり多くを語る方ではない。「さあ、行こう」が定番。しかし、この日は違った。二軍から集結した若手選手たちはただの代わりではない。期待をしているから試合に使う。だから、そのつもりで試合に挑んで欲しかった。あわよくば主力がいない間にレギュラーを奪ってやるという気概を求めた。その熱い檄に選手たちも目がギラギラと輝いた。
「正直、今年はもうないかもと思っていた」
「下で調子のいい選手ばかり。どこかでチャンスをとは思っていた。これをチャンスに変えて欲しい。二軍でしっかりとやってきたことを一軍でしっかりと出して欲しい。こんな優勝争いの中で試合に出ることが出来るのはいい経験になるし、活躍すれば自信になる。彼らにとって本当にチャンス。こういう時に掴んで欲しい」と井口監督はこの緊急事態にも動じる様子などまったく見せず、むしろこの状況下で若手がどのようなパフォーマンスを出すのかを楽しみにしているようにすら見えた。
10月9日のホークス戦(PayPayドーム)。1番レフトで起用された藤原恭大外野手はプロ初の3安打猛打賞にプロ初盗塁も記録。9日と10日、2試合連続で適時打も放った。
「一軍と言われた時は結構、緊張していました。ただ状況を見た時にスタメン、代打、代走と出番は必ずあると思った。チャンスだと思った」と藤原。
一軍合流の電話がかかってきたのは浦和寮で夕食を食べている時。「正直、今年はもうないかもと思っていた」と本人が言うように突然のアクシデントから出番が回ってきた。「おもわず手汗が出た」と全身から汗と共に闘志が沸き上がった。今年を勝負の一年と位置づけながらも開幕から無念の二軍暮らし。千載一遇の好機をものにすべく燃えた。