9月30日――。

 異例のシーズンとなった今季、例年より2ヶ月延長されましたが、9月末日に育成選手の支配下登録期限を迎えました。NPBの発表によると9月30日時点で12球団の育成選手数は110人。中でもホークスは最多タイの21人の育成選手を抱えています。

 毎年、「ホークスの選手層は厚過ぎる」と球団内外から聞こえてきますが、今季は特にそう感じる場面も多いです。「2軍は若手育成の場であり、1軍の戦力の準備の場」。2軍のオーダーを見ると、内川聖一選手、上林誠知選手、西田哲朗選手など主力選手たちも名を連ねています。チーム事情による起用も当然ありますが、中堅、若手選手たちが出場機会を分け合うようなケースもあります。それもあって、ホークスの2軍の規定打席到達者は野村大樹選手とリチャード選手しかいません。

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 当然、支配下選手と育成選手では、育成選手に与えられるチャンスは多くありません。3軍制を敷いていても、まだまだ試合に飢えている選手がファームにはたくさんいるのです。だからこそ、一打席一打席を大切に、一球一球に全力でプレーするのです。

9月の月間打率 驚異の4割4分

 背番号124番。プロ6年目で未だ1軍出場のない古澤勝吾選手は、どんな時も全力で笑顔でガムシャラにプレーしてきました。現在1軍で活躍中の栗原陵矢選手や松本裕樹投手、笠谷俊介投手とドラフト同期入団の24歳。九州国際大学付属高校からドラフト3位で入団するも、2018年シーズンオフに育成契約となりました。もがきながらのプロ生活ですが、彼はどんな時でも前向きでした。以前も文春野球コラムで書かせて頂きましたが、彼は“スーパーポジティブマン”なのです。

 今年、そんな古澤選手にさらに磨きがかかっています。

9月打撃好調の古澤勝吾選手 ©上杉あずさ

 9月の月間打率は驚異の4割超え! 途中出場で迎える打席も多かった中、その一打席にかける集中力も光りました。4割4分の好成績は、入念な準備と練習の賜物です。

 古澤選手は師事する新井宏昌2軍打撃コーチにヘッドの使い方の助言を受けました。これまでは「ヘッドを遅らせたところから上手に使えるとヒットゾーンに打球が飛ぶ」と言う新井コーチの言葉とは逆で、一生懸命バットを振ろうとすることでヘッドが早く出すぎていました。そこで、ティー打撃では外寄りに投げてもらって外に返すイメージで打撃練習を行ってきました。ヘッドが遅れて出てくるように意識的にくり返し練習し、試合になると相手投手との対戦のみに集中。「どんなチャンスの時でも、代打でもスタメンでも同じように打席に入れないといけない」と冷静さを保っています。

 今までの古澤選手だったら、チャンスであればあるほど「よっしゃー! やったるぞー!」と意気込んでいましたが、それが欲となり打撃が崩れてしまうこともありました。こうした気持ちの熱さも古澤選手の魅力の一つでしたが、今では「根拠のある打席にしないといけない」と毎打席集中し、気持ちの安定感も増してきたようです。

パワー系から動ける身体にするためのトレーニングに

 安定と言えば、守備の安定感も増しています。二遊間を守る古澤選手は今季、堅実なプレーとセンターに抜けそうな打球にしっかり追いついて華麗に捌く姿が印象的でした。素人目にも、その進化は明らかでした。

 この変化の背景には確かな取り組みがありました。育成になった年の秋季キャンプ中、松山秀明2軍内野守備走塁コーチがあることに気が付きました。それは、古澤選手の“動作速度の遅さ”でした。決して俊足の印象はないにしても、ずっと内野手としてやってきて、代走で出場することもある古澤選手に“遅い”という印象はありませんでした。しかし、実際に俊敏に動けていないことが数値にも表れ、本人もハッとしたと言います。