10月26日、今年もドラフト会議が開催される。プロ志望届を提出している選手達からすれば、どの球団に指名されるかによって、彼らの人生は大きく左右される。ドラフト当日は「運命の日」と評されるが、あながち言い過ぎではないだろう。

 そして、それは選手にとってだけではない。彼らを発掘した、球団の屋台骨たるスカウトマン達にとっても同じく「運命の日」である。小松辰雄や荒木雅博の獲得に尽力した、元中日ドラゴンズのスカウト法元英明は自身の著書でこのように書いている。

<スカウトの仕事は恋愛のようなもの。これだと見込んだ選手は時間と労力をかけて、徹底的にマークする。しかし、現行のドラフト制度では、恋愛は成就しない可能性があることも覚悟しておく必要がある。>(法元英明「ドラマは球場の外にある」(ぴあ)より)

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八木スカウトが語る「隠し玉」竹内獲得の経緯

 ドラフト会議は、スカウトマン達にとってこの“恋愛”が成就するか否かの答え合わせの日だ。スカウトがどれだけ獲得を熱望しようとも、くじ引きやチーム事情次第で指名にさえ至らないことは特別な話ではない。各球団スカウトの数は10名前後、一方で指名する選手は育成を除けば多くても毎年8名ほど。必然的に、その年に入団した担当選手はゼロ、というスカウトマンも出てくる。

 そんな中、スカウトに就任してたった2年間で担当選手を3名も入団させたスカウトマンがドラゴンズにいる。2017年限りで現役を引退した八木智哉スカウトである。

中日ドラゴンズ八木智哉スカウト

 八木スカウトは2005年に創価大学から希望入団枠で日本ハムに入団し、即戦力左腕として翌年から先発ローテの一角を守り、新人王を獲得。その後オリックスを経て中日に入団、2017年に現役を引退し、翌2018年からスカウトとして球団の編成部へ配属された。18年ドラフトでは石橋康太、垣越建伸の2名を。19年ドラフトでは竹内龍臣を担当し、今年も北海道・東北担当としてスカウティングを続けている。

 筆者は今年の春、「ドラゴンズぴあ2020」という雑誌でルーキー竹内龍臣の特集を担当し、その一環として沖縄キャンプを訪れていた八木スカウトにも話を伺った。ドラフト6位指名で中日ドラゴンズに入団した竹内龍臣に届いた調査書は、中日1球団からのみ。完全な「隠し玉」だった。選手が指名される度に拍手や歓声が起こっていたドラフト会場からも、竹内の指名時にはどよめきが起こっていたことをよく覚えている。どういった経緯で彼を発掘し、獲得に至ったのだろうか? 八木スカウトは、竹内獲得の経緯をこう語ってくれた。

「スカウトになった2018年、北海道と東京と山梨を担当することになって、中日ドラゴンズOBの遠田(誠治)さんが野球部監督を務めている札幌創成高校にもご挨拶に伺ったんです。良い選手がいたら教えてください、とお願いしたら“ウチにも面白い投手がいるんだけど”と仰っていただいて。それで見せていただいたのが当時高校2年生だった竹内でした。まだ直球が140km出ないくらいでしたけど、球筋が良かったんです。

 そしたら翌年に遠田監督から“(球速が)上がってきたんで見にきませんか?”と連絡をもらったので、また見に行ったら、体重も増えて球速も上がっていました。それ以上に、直球のスピンが利いてて、打者の手元での伸びが良かったんです。球持ちが良い、打者がタイミングを取りづらそうなフォームもしているし、これは使える変化球を覚えたら面白い存在になると思いました。それで映像を上に見てもらったら、“獲ろう”と。育成で、という話は全く出なかったですね」

19年ドラフト6位で中日ドラゴンズに指名された竹内龍臣