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「お前の目玉をつぶす。分かったか」 大企業を震え上がらせた総会屋の正体

『総会屋とバブル』より #2

2020/10/08

source : 文春新書

genre : ビジネス, 企業, 社会, 経済

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富士写真フイルム専務刺殺

 阪和銀行の副頭取射殺事件が発生してから半年余り、今度は東京都世田谷区の閑静な住宅街で男性の悲鳴が上がった。

 1994年2月28日、富士写真フイルム(現・富士フイルム)専務、鈴木順太郎方のチャイムが鳴り、鈴木本人が応対に出たところ、何者かに頭部2カ所と右太ももなどを鋭利な刃物で刺されて死亡した。わずか1分の凶行だった。

 鈴木は1991年に総務部長に就任し、総会屋との関係遮断を進めていた。それまで富士写真フイルムの株主総会はシャンシャン総会で終了していたが、鈴木が総務部長に就任した翌年は1時間以上となり、その後は多くの総会屋が乗り込んで質問が相次ぎ、4時間以上となることもあった。

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 株主総会の途中で社長の大西実にウイスキー瓶を投げつけたとして、総会屋グループのメンバーが逮捕される事件もあった。この総会屋は指定暴力団山口組系で関西を根城に活動していた暴力型総会屋、児玉グループのメンバーだった。

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 事件から8カ月後に逮捕されたのは、大阪の暴力団砂子川組系の幹部と、山口組系組員だった。後の捜査で判明したところでは、砂子川組の元幹部が実行犯に、富士写真フイルム社長の大西と専務の鈴木の2人の住所と名前を告げて、「どちらかを殺(や)れ」と襲撃を指示していた。それ以上の背後関係は不明のままだったが、企業側に恐怖心を抱かせようとした企業テロであることは間違いなかった。

 そして、1994年9月14日朝、さらに世間を震え上がらせる事件が発生した。

 住友銀行(現・三井住友銀行)名古屋支店長の畑中和文が早朝、自宅マンションの通路で頭を拳銃で撃ち抜かれて殺害されたのだ。畑中はパジャマ姿で通路の壁を背にして座り込んだ状態で、頭から血を流していた。銃弾は右顔面から後頭部に貫通していた。

 現場は約20世帯が入居する高級マンションで、出入り口はオートロックだった。部屋の訪問者は部屋番号を押して入居者にロックを解除してもらいマンション内に入るか、暗証番号やカードを利用しないと外部からは入れないシステムとなっていた。

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 犯行は短時間で、たった1発の銃弾で頭部を撃ち抜いており、プロの犯行であることは明らかだった。畑中は1965年、大阪大学を卒業後、住友銀行に入行。大阪駅前支店長などを経て1991年から名古屋支店長となっていた。営業の担当が長かったが、大阪本店総務部で総会屋対策を担当したこともあったという。

 阪和銀行副頭取射殺事件とこの事件は、未解決のまま時効を迎えた。