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現代の「恐竜発掘調査」その舞台裏とは?――現役調査員が明かす真実

2017/09/17
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恐竜の発掘調査の舞台裏を描いた『恐竜探偵 足跡を追う 糞、嘔吐物、巣穴、卵の化石から』が話題だ。著者であるアンソニー・J.マーティン博士とともに調査・研究をしたこともあり、現在は石川県立自然史資料館に勤務する桂嘉志浩氏が、知られざる発掘調査の魅力を綴る。

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 化石、特に恐竜は、子供から大人まで、また、自然科学に関心の薄い人達をも魅了するものです。私も化石の虜になった一人で、恐竜が数多く発見されているアメリカ合衆国モンタナ州にある大学に留学し、研究者にまでなってしまいました。現在勤務している石川県立自然史資料館では、子供たちから「恐竜発掘」のリクエストが多くあります。私の研究調査地域であるモンタナ州に連れて行って、体験させてあげたいのですが、楽しい反面、とても過酷なため、躊躇してしまいます。

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 恐竜が生きていた当時、モンタナ州は、北アメリカ大陸を二分していた内海の海岸沿いに位置する開けた土地でした。しかし、現在は内陸となり、夏は40℃、冬は-40℃にもなるような気候で、草木もあまり生えないようなバッドランド(悪い土地)になっています。

モンタナ州東部に広がるバッドランド ©桂嘉志浩

 調査をする夏は暑いだけでなく、湿度が低いために、日中は常に水分補給をしていないと命にかかわります。しかし、朝晩は白い息が出るくらい冷え込みます。長期にわたる調査中はずっとテント暮らしで、自炊をします。

 バッドランドは地形の起伏が激しく、滑りやすいことに加え、猛毒のガラガラヘビがどこに潜んでいるかわかりませんので、化石を探して歩くだけでもとても危険です。

調査中にポーズをとる筆者(脚に付けているのは、対ガラガラヘビ用のプロテクター) ©ジョン・スキャネラ
調査中に出くわしたガラガラヘビ ©桂嘉志浩

 化石は比較的豊富にありますが、研究に値するような良いものはまれで、一か月以上調査しても、そのような化石を一つも発見できないことはザラなのです。

小型肉食恐竜のカギ爪 ©桂嘉志浩

背骨ひとつが大発見につながることも

 しかし、地表に出ている部分はわずかであっても、地中に何が埋もれているかわかりませんので、落胆してもあきらめてもいけません。学生の頃、ワニの背骨が1つだけ地表に出ていたのを見つけたのですが、試しにそこを掘ってみたところ、頭骨を含むほぼ全身骨格が出てきたことがありました。

ワニの化石 ©モンタナ州立大学付属ロッキー博物館

 ただし、実際は逆の場合が多く、期待して掘っても何も出ず、徒労に終わることがよくあります。

 調査が終わる直前に素晴らしい発見をすることも少なくなく、とりあえず隠して翌年まで待つということもありますし、他の研究者に発掘をまかせて帰国しなければならないこともあります。2010年の調査では、トリケラトプスの一部を発見したのですが、時間切れで帰国し、後日、発掘を託したスキャネラ博士から「大きくて長い骨がみつかり、脚の骨だと思って発掘していたら、とんでもなくでっかい角だった」と連絡を受けたことがあります。

大きな角を持つトリケラトプス ©モンタナ州立大学付属ロッキー博物館

 化石を発掘する際は、壊さないように慎重に、しかし時間が限られていますので、大胆に掘り進んでいかなければなりません。関節がつながった状態で保存された大型の恐竜だと、母岩を含めると重さが数トンにもなります。場所によっては、100キロを超えるようなものも人力で運ばなければならない場合もあり、とても忍耐と体力のいる仕事なのです。