『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』、『そもそも島に進化あり』などの鳥類本を書いてきた著者による最新刊。
「鳥類学者とはどんな職業で、どのように研究をしているかを知ってもらおうと、ありのままを書きました。日本鳥学会の会員数は約1200人。『日本タレント名鑑』に載るタレントは約1万1000人だから、芸能人よりも出会うのが難しい人々なんです(笑)」
川上さんの勤務する森林総合研究所は茨城県にある。ここを拠点に、小笠原諸島の島々に生息する鳥を研究し続けている。調査は周到な準備をしインディ・ジョーンズも真っ青の大冒険だ。本書では、小笠原諸島の無人島・南硫黄島の調査が詳細に記述されている。同島は環境省によって厳しく立ち入りが制限された原生自然環境保全地域に指定され、自然が手つかずに残っているのだ。
「島は200メートル級の断崖絶壁に囲まれ、南部の崖の谷間が唯一の登攀(とうはん)ポイント。100メートル沖まで船で近づき泳いで島に渡ります。生態系保全が私たちの仕事ですから、外来生物を持ち込むわけにはいきません。装備品を新調したり、新品を買えない道具は冷凍して随伴動物を殺したり、目視でのチェックもします。最後に、『種子が付いていませんように』とお祈りをする(笑)。1週間前から隊員は、果物を食べない。種子が自分の体から排出されてしまう可能性もありますから」
川上さんたちは島で“天国のような地獄絵図”を目撃した。
「約900メートルの島の山頂には、無数の鳥の死体が落ち、木の枝や蔓にもぶら下がっている。その死体にこれまた無数のハエが群がる。そんなむき出しの自然が目の前に広がっていて興奮しました。この島には、ネズミやカラスなど死体を食べる動物がいないので、死体がゆっくりと分解されるのです。そこに、調査目的のクロウミツバメが現れた」
この鳥は、南硫黄島の山頂部を世界唯一の繁殖地とする海鳥だ。
「母島列島に生息するメグロも固有種です。言うまでもありませんが、小笠原諸島は東京都の一部。実は東京都でしか繁殖していない鳥は多いんです」
小笠原諸島の鳥だけでなく、身近なウグイスなども取り上げている。また、森永チョコボールのキャラクター“キョロちゃん”を実在する鳥と仮定し、目や足の付き方などから、その生態を分析するという遊び心も満載の1冊だ。