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「放射能が怖くてヤクザがやってられっかっての!」 1Fの水素爆発に直面したヤクザが取った行動とは

『ヤクザと原発 福島第一潜入記』#3

2020/10/11

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 読書

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住民票さえあれば特別なスキルはいらん

 大阪で取材している間、ほぼすべての指定暴力団が作業員を集めていることが分かった。北海道から沖縄まで、そのどれも日当がべらぼうに高い。5万円から20万円が相場で、なかには日当50万円を保証すると豪語した組幹部もいる。組織を追われた破門者がブローカーになっているケースもあった。これは日当が7万円。いずれも一般的な日雇い労働ではあり得ないほど高額だ。

 水素爆発直後、高額な日当が出たらしいことは分かっていた。が、この段階で確証はなく、専門的なスキルを持ったプロが対象だろうと予想した。にもかかわらず、取材した暴力団員たちは、「誰でもええ」と断言した。

「条件は40歳以上、で、65歳以下の男。ただ住民票がないヤツはあかん。それさえあれば特別なスキルはいらん。いまなら第一陣に間に合うで。第一陣は4月26日出発や」

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 確認のため信用のおける暴力団を3カ所選び、それぞれの指示に従って応募した。話の真偽を調べるには、実際に現場に出るのが手っ取り早い。

写真はイメージです ©iStock.com

「万が一があっても、国が保険をかけてくれるから心配いらん。わしが間に入る以上、写真が撮れるようしたるわ」(独立組織幹部)

 しかし5月の半ばを過ぎても、いっこうに招集の電話がない。暴力団が人集めをしていることは間違いないが、本当に暴力団ルートで集められた人間が1Fで作業しているかどうかは疑わしい。考えてみれば、暴力団の話は怪しかった。たとえば、日当はすべての作業を終えたあと事務所を通じての精算だと言われた。その時点で「そんな額は払えない」と居直られたらおしまいだ。

 あとで分かったことだが、東電は1Fの事故対応に追われ、協力企業への危険手当の額を出していなかった。そのため日立や東芝といったプラントメーカーも、その2次請けや孫請けも、4月の締めは通常の金額で決算している。あくまで推測だが、高額の日当を撒き餌にしている暴力団は補償金目当てではないのか。後日、作業員が健康を害したとか、精神的苦痛を味わったと言い立て東電を強請(ゆす)る。これが成功するなら高額の日当を払ってもペイできる。

 それに原発の敷地内に立ち入るには放管手帳がいる。これを申請するなら、運転免許証のコピーを求められるはずだ。写真が載っている上、記載してある番号を照会すれば、前科や罪状もすぐに分かるため、免許証ほど理想的なIDはない。実際、共同通信が報じた労働者は初めての原発労働だったが、大型自動車免許の保持者である。住民票を求められること自体、おかしな話だ。

ヤクザと原発福島第一潜入記 (文春文庫)

鈴木 智彦

文藝春秋

2014年6月10日 発売

「放射能が怖くてヤクザがやってられっかっての!」 1Fの水素爆発に直面したヤクザが取った行動とは

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