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『おっさんずラブ』Pに聞く「なんで、“おじさん同士の恋愛ドラマ”になったんですか?」

『おっさんずラブ』プロデューサー・貴島彩理さんインタビュー #1

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貴島 で、その日はその家に泊まって。朝は彼女が起こしてくれて、起きた時にはもう食卓にコーヒーとパンケーキが用意されていたんです。

――コーヒーとパンケーキ!

貴島 「あれ? この人は、私の妻なのかなぁ」と思わず思いまして。と同時に「そういえば、なぜ私は当たり前のようにパートナーを異性から探そうとしていたのだろう?」と考え込んでしまったんです。同性だから結婚できない、という理由は特にないなと。

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 その率直な疑問への答えを探していくうちに、『おっさんずラブ』の企画が生まれました。

なぜ女性ではなく「男性同士の恋愛ドラマ」になったのか

――なるほど。でもその体験からすると、女性同士の恋愛ドラマになっても良かったのかなと思ったんですが……。

貴島 そうですね、主人公は男性でも女性でもよかったと思います。企画当初は、ダメダメな主人公が好きな女性はいるけれど“理想の女性”ではない……という状況の中で、理想にピッタリな同性が現れる、という内容でした。その後に、恋愛ドラマの醍醐味として三角関係、四角関係にしてゆくのはどうだろう? と思い、尊敬する上司に会社で告白されるという“社内恋愛”の要素を増やしてみました。

――尊敬する上司に告白されるというのは、まさに春田創一(田中圭)と黒澤武蔵(吉田鋼太郎)の関係ですね。

貴島 そうです。この設定を作ったときに、「もし自分が心から尊敬する同性の上司に告白されたら……」と自分に置き換えて考えてみたんですが。純粋に嬉しい気持ちになるだろうなと思いました。けれど、大好きで尊敬しているからこそ、気持ちに応えられなくて困るだろうなと。

『おっさんずラブ』(2016年) ©テレビ朝日

――春田役を演じた田中圭さんはこの作品が代表作となり、以降も『あなたの番です』(2019年・日本テレビ系)など人気作に続々と出演されるブレイクを果たされました。

貴島 色々な作品を拝見していて、ぜひ一度お仕事をしてみたいと思っていた方の1人でした。初めて自分がプロデューサーを務めるドラマということで、勇気を振り絞ってお願いしました。

――最初は、単発ドラマとして年末の深夜枠で放送されます。後に社会現象を巻き起こす人気になっていくわけですが、視聴率を見て意外でした。そんなに高くないというか……。

貴島 もともと単発で終わりだと思って作った作品でしたし、当時はSNSのトレンドが指標とされていない時期だったので、視聴率的には振るわない結果ということで終わると思っていました。でも年明けに、テレビ朝日の視聴者センターにたくさんの反響を頂いて。「続きが見たい!」「続編の予定はありますか?」と。いまでも全部印刷して保存しているのですが、それぐらい嬉しかったです。

連ドラから登場「牧の元恋人・武川政宗」が生まれたのは……

――まさに『おっさんずラブ』人気が爆発した瞬間ですね。そして約1年半後に連続ドラマとしてスタートします。視聴者からの期待に応える形で続編を制作するのは大変だったんじゃないかと想像します。

貴島 連続ドラマとして何を作るか、とても悩みました。多くの人からお声を頂いた、単発ドラマの“続き”を描くのか、それとも新しい世界観を作り出すのか。話し合った末に、やはり“春田とハセの物語”は完結しているという結論になり、天空不動産という新しい舞台を作ることにしました。そこから、個々のキャラクターを見つめ直し始めました。

――個々のキャラクターを見つめ直す?