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本阿弥光悦に日本美の典型を見る
展示の後半に、いくつもの作品が取り上げられているのは、本阿弥光悦である。京の都に住み書、陶芸、蒔絵、茶の湯などなど、あらゆる技芸に通じた総合芸術家と呼べる存在だ。
今展でも伝統の蒔絵技術を駆使した《舟橋蒔絵硯箱》や《子日蒔絵棚》、掛軸に仕立てられている《月に秋草下絵新古今集和歌色紙》、みずから土をこねてこさえた《赤楽茶碗 銘 加賀》に《黒楽茶碗 銘 村雲》。さらには俵屋宗達が絵を描いた巻紙の上に、三十六歌仙の和歌をしたためていった《鶴下絵三十六歌仙和歌巻》などと、多彩な作品でその多才さを見せつけてくれる。
思いがけない異質なものを掛け合わせたり、融合させたりして、新奇なイメージやデザインを生み出すのが光悦の得意技と言えそうだ。光悦が持っていたこの特長は、日本美術の、ひいては日本文化の特質そのものと考えてもいい。その証左に、光悦や俵屋宗達の作品を嚆矢として、日本の美の典型ともいうべき「琳派」が江戸時代を通して確立されていき、その美意識は現在の私たちにもしかと共有されている。
安土桃山時代というのは、それまでの時代にほうぼうで萌え出ていた芽が多彩な表現者たちによって統合され、日本特有の新たな価値が生まれ出るときだった……。
そのことを、見事な出来映えの作品群を眺めながら実地に感じ取れるのが、この展示というわけである。日本文化を眺める視座が、自分の内部に生まれ出てくること請け合いだ。