江戸の庶民の生活に欠かせなかったもののひとつ、それが浮世絵である。
当時から世界有数規模だった街で都市生活を送っていた江戸っ子たちは、日々大量に出回る浮世絵版画を安価で手にして(現在の感覚でいえば1枚数百円程度か)、そこに描かれた当世評判の美人の姿を堪能したり、評判をとっている芝居の見どころを知ったり、全国の名所名勝の様子に想いを馳せたり……。生きていくのに必要な情報や娯楽を、そこから摂取していたのだった。
江戸時代の浮世絵は、いまならさしずめスポーツ新聞と週刊誌と漫画雑誌を併せたような存在か。または、インターネットであれこれ人気サイトを回遊するような感覚かもしれない。いずれにせよ、当時を生きた人たちの嗜好の方向性や美的感覚が、これほど生々しく伝わってくるものもまたとない。
江戸の息吹を今に伝える浮世絵、その名品を一挙に展観できるようにした展覧会が始まっている。東京上野・東京都美術館での「The UKIYO-E 2020 日本三大浮世絵コレクション」。
約450点に及ぶ「日本にある浮世絵版画名作選」
浮世絵は「江戸庶民の愉しみ」であり、さほど貴重で希少なものとは思われていなかった。それが災いして、明治以降は美術的価値がなかなか認められなかった。その時期に優品が相当数、海外へ流出したと見られている。
とはいえ国内に留まったものがないわけじゃない。日本三大コレクションと呼ばれる太田記念美術館、日本浮世絵博物館、平木浮世絵財団はそれぞれ名品を多数所蔵している。それらを結集し、約450点に及ぶ「日本にある浮世絵版画名作選」を展開しようというのが今展である。
展示の構成としては、時代順による並べ方を採用した。浮世絵は17世紀後半に誕生し、幕末までは途切れることなく盛んに作られた。その間には当然ながら作風の変遷がある。今展の会場をひと回りすれば、変化の様子をつぶさに追えるようになっている。たいへん観やすくわかりやすいかたちになっており、浮世絵という表現の全体像を理解するのに大いに役立ってくれる。