南アルプスと中央アルプスの自然に抱かれた長野県南部にある宮田村。この静かな村で銃撃事件が起きたのは9月28日、日没前の夕暮れ時のことだった。
銃撃現場は、ラーメン店の駐車場に停められた乗用車の中。撃たれたのは、神戸山口組から離脱した「絆会」の有力傘下組織で、同県松本市に拠点を置く竹内組の組長、宮下聡(48)。命に別状はないものの腹部に重傷を負った。
車内で宮下が自ら119番通報して事件が発覚。銃撃が車の中で行われ、周囲には住宅が点在する程度だったため、拳銃の発砲音を聞いた近隣住民はいなかった。住民たちが異変に気付いたのは、赤色灯を回転させサイレンの音を響かせた救急車の到着によってだったという。(全2回のうち1回目。後編を読む)
同じ組織の幹部同士の“内紛”
この事件をめぐり、暴力団業界で波紋が広がったのは、宮下を銃撃した殺人未遂容疑で長野県警に指名手配されたのが、宮下と同じ「絆会」のナンバー2、若頭の金澤成樹(52)だったからだ。
金澤は元々、竹内組組長を務めていて、被害者の宮下に同組組長の座を譲っていた。同じ組織の組長の前任者と後任者による、いわば“親子”の内紛だったのだ。
山口組の事情に詳しい指定暴力団幹部が解説する。
「銃撃事件後、宮下が組長を務める『竹内組』の事務所には、多くの6代目山口組系組員が詰めかけていた。つまり竹内組の6代目山口組への移籍が事件の背景にあった。すでに移籍は完了しているから、駆け付けた6代目側の応援部隊が竹内組を固めていたのだろう」
6代目山口組から神戸山口組が分裂して5年。その神戸山口組から2017年に分裂して生まれたのが「絆会」。その絆会の一部が、6代目側に接近していたのだ。
弘道会系の組員らが当番制で駆けつける
長野の事件をめぐっては発生当初から、暴力団業界、そして警察当局では、竹内組の「絆会から6代目山口組への移籍」をめぐるトラブルが原因との情報が飛び交った。
その背景にあるのは、絆会の最近の動きだった。
絆会をめぐっては、会長の織田絆誠が今年夏ごろから、組織を解散して暴力団という「反社会的勢力」を脱した組織にする意向を周囲に話していたとの情報が出回った。こうした織田の意向を踏まえ、今回銃撃された竹内組組長の宮下は暴力団業界に残るため、絆会系から6代目山口組系に、竹内組を移籍するための事前準備を進めていたというわけだ。
事情を知る指定暴力団幹部が背景を解説する。
「この事件に至るまでの経緯として、織田が絆会を解散すると周囲に話をしておきながら、途中から『やはり続ける』と言い出したことが指摘できる。竹内組の宮下は解散となっても、ヤクザとして生きていきたいという意思があり、6代目(山口組)側に移籍しようと、かなり前から水面下で打診していた」