1ページ目から読む
3/4ページ目

圧し掛かる名門校の主将という重責 

 だが、吉田には名門校の主将という、果たさなければならない役割があった。

 自分の一挙手一投足は、チームの士気にも関わる。だからこそ、チームメイトにも弱音を漏らすわけにはいかなかった。生来、責任感が強いこともあるのだろう。同級生や監督、コーチにでさえ打ち明けることはしなかった。

 とはいえ、自分自身の状況を棚に上げて、チームメイトを鼓舞することもできず、もどかしくもあった。

ADVERTISEMENT

 5月に緊急事態宣言が解除されると、6月にようやく部が再集合し全体練習が再開した。試合や記録会が少しずつ開催されるようになると、試合再開を待ちわびていたチームメイトたちには自己記録が続出した。秋冬の駅伝シーズンに向けても、少し希望を持てるようになった。

昨年の全日本大学駅伝ではアンカーを務めた吉田(右から2人目) ©文藝春秋

 そんな良い流れが生まれつつあった折、更なる衝撃がチームを襲った。

 7月27日に、学生駅伝の開幕戦である出雲駅伝の中止が早々に決まってしまったのだ。

「‟三大駅伝”ってセットで考えられているものなので、1つでも中止という流れができてしまったことに、すごく嫌な予感がしました。出雲は中止なのに、全日本はできるのか? 箱根はできるのか? そうなってしまうのかなって。先々に影響が及ばないか、心配になりました」

 そう吉田は懸念していた。

箱根駅伝は開催方向へ、だがしかし……

 幸いにも、9月20日、箱根駅伝を主催する関東学生陸上競技連盟は、箱根駅伝を含む主催大会を無観客で開催する方向であることを発表した。

 だが、それでも吉田の胸中は、決して安堵感に浸ったわけではなかったという。

1年間、葛藤の中でトレーニングを続けてきた ©文藝春秋

「今は、箱根駅伝が開催されるものと信じて練習をしていますが、もしこの先、第3波が来て感染者が増えたら、中止になることだってありえると思っています。だって、今年は異例だらけの1年でしたから、これから何が起きてもおかしくはないでしょう。だから、そういった事態にも備えて、一応覚悟はしているつもりです」

 それは今年1年間、ある意味で自分たちの力では及ばない「外野」の喧騒に振り回され続けた吉田が固めた、静かな覚悟だった。