なぜ、わざわざこのプラモデルを論じる価値があるのか?
思えば第一作のスター・ウォーズ(1977年公開の「エピソード4 新たなる希望」。日本公開は78年)を見て以来39年、ずっとずっとこんなキットが自分の手元に来るのを待ち望んでいた。片思いだった幼なじみとの恋愛が、中年になってようやく成就したかのような気分。あるいは「ガンダム0083」の敵役アナベル・ガトーに倣って「我々は39年待ったのだ!」と叫び出したい気持ちでいっぱいだ。
全長48センチ。お値段は税込み4万3200円。プラモデルとしては超高額商品だが、私(小石)はあえて断言しよう。「この『ミレニアム・ファルコン』には値段を超えた価値がある!」と。
このプラモデルの何が凄いのか。なぜ、わざわざ論じる価値があるのか。
ミレニアム・ファルコンをはじめ、反乱軍の宇宙戦闘機や帝国軍の巨大宇宙戦艦など、第一作のスター・ウォーズの劇中に登場するメカは、当然ながらすべて撮影用のミニチュアだ(当時はCGなんぞ影も形もなかったので)。今回のキットはその「ミニチュア」を模型化したもの。つまり「模型の模型」とも言える存在だ。
キット・バッシングを「手抜きじゃん!」と思ってはいけない
スター・ウォーズ世界の創造神、ジョージ・ルーカスは当時、作品の出来を左右する特撮専門のスタジオを自ら設立。それまでは建築模型やテレビCM用の撮影ミニチュアの世界で活躍していた凄腕のモデラーたちをスカウトした。そして彼らがファルコン号をはじめとする宇宙船のミニチュアを創造するために編み出したのが「キット・バッシング」(既存のキットをぶった切って新しいモデルを作るというニュアンスだと思われる)と呼ばれる手法だった。
宇宙船の基本形を形づくった後、その表面に既存のプラモデルキットの部品を組み合わせてペタペタ貼り付けることで、細かい部分のメカっぽさを出していったのだ。劇中のファルコン号の表面をよーく見ると、子供の頃につくったタイガー戦車のエンジングリルとか、F1のエンジンの一部とか、アポロ11号の月着陸船とか、どっかで見たような部品が所狭しとくっついているのが確認できる。
決して「それって手抜きじゃん!」などと思ってはいけない。
プラモデルというのは、実在する飛行機やレーシングカー、戦車などのメカを縮小再現したものだ。そこには、本物の機械が持つ「機能美」がそのまま再現されている。そのパーツをそのままミニチュアの表面に貼り付けることで、あーら不思議。頭の中だけで嘘八百ででっち上げた宇宙船たちが、「いかにも実在しそう」な、リアルでかっちょいいメカに早変わりしてしまったのだ。
そんなわけで、「ミレニアム・ファルコン」をはじめとするスター・ウォーズのメカたちは、あっという間に全世界の模型好き少年(一部少女)たちのスーパーアイドルとなり、今も新製品が続々と登場している。
ちなみに、CGが発達したおかげでミニチュアがほとんど使われず、プラモデルのパーツの出番もなくなった新三部作(エピソード1~3)に登場するメカたちは、さっぱり人気がない。ファルコン号のように実在するメカとの接点がないから、全然リアルじゃないのだ。
「キット・バッシング」という手法がいかに優れていたか、そして当時のスタッフたちがいかにセンスよくプラモのパーツを選び、絶妙の組み合わせで貼り付けていったか、という証しだろう。何せ彼ら自身が筋金入りのプラモデル好きだったわけだから、作っていて楽しくて仕方がなかったに違いない。
当時、数あるミニチュアの中でも特にスタッフたちから愛され、みんながプラモのパーツをどんどんくっつけていったのがファルコンだったという。スタッフたちの味わった「創る悦び」がそのまま形となったのが、「ミレニアム・ファルコン」なのだ。