再犯者はわずか数人、「落としの蜂谷」の真骨頂
その手法は常人に簡単に真似できるモノではない。16年に逮捕したハナさん(仮名)のエピソードは本人も何度も講演で触れたが、語り草になっている。
覚せい剤取締法違反容疑で逮捕され、黙秘を続けるハナさんに対し、蜂谷容疑者は事件に触れることなく、毎日のように得意の落語を披露し続けた。勾留期間が終わりを迎えるころ、ようやくハナさんは自ら蜂谷容疑者に自分の半生を語り始めた。
執行猶予判決後も蜂谷容疑者はハナさんの仕事の相談などにのり、ハナさんは介護資格を取って新たな人生に乗り出していった。
逮捕した100人以上のうち、再犯者は、数人だ。否認のまま判決を受け、再犯に走る容疑者も多い中、再犯者がほとんどいないということは、それだけ蜂谷容疑者の言葉が容疑者に心に届いたということでもある。「落としの蜂谷」の真骨頂と言っていい。
ただ、そこにこそ、今回の事件の芽が潜んでいた、とみる向きもある。
女性刑事が男性の容疑者と関係を持ったり……
「捕まえることだけが刑事の仕事ではない」
蜂谷容疑者が、父親から受け継いだ口癖だ。蜂谷容疑者の父親は茨城県警で暴力団担当の刑事として従事。自宅に暴力団関係者を呼び、親身に相談に乗る姿を間近にみて育った。
暴力団担当の長い捜査関係者は言う。
「泥水をすすらなきゃ、泥水に棲むヤクザ者の情報は取れない。そう思ってヤクザ者と付き合ってきたが、取り込まれる人間もみてきた。だからこそ、警察は2人以上でヤクザと会う、などのルールを整備していった。そんなルールが邪魔だと思う連中も多かったけどね」
警視庁に限っても、男性刑事が女性の容疑者と関係を持ったり、女性刑事が男性の容疑者と関係を持ったり、あるいは男性刑事が女性の容疑者、女性の被害者を追いかけ回したりする事件は後を絶たない。
得てして「自信のある奴に限って、そういう事態にはまっていく」(同前)という。
捕まえることだけが刑事の仕事ではない。だが、どこまでが刑事の仕事なのか。蜂谷容疑者を新しいタイプの刑事の鑑として持ち上げる警視庁幹部も多かった。今回の事件を生んだのは、その慢心ゆえか、それとも……。