2017年8月から10月までの約2ヶ月の間で男女9人を殺害した白石隆浩被告(30)。短期間にこれだけの人数を殺害する事件は稀だ。しかもSNSで知り合った男女を殺害したという意味でも、計画性があり、慎重でなければ実行できない面もあったはずだ。しかし、2020年9月30日から東京地裁立川支部(矢野直邦裁判長)で始まった裁判員裁判での証言を聞くと、計画性のなさも感じる場面が多い。
弁護人をコントロールしようとしている態度
白石被告の態度を見てみる。当初から弁護人との方針の違いがあった。10月8日、白石被告は「方針が合わずに、根に持っています」と、弁護人からの質問を拒否する姿勢を見せていた。そう言いながらも、次第についつい答えてしまう場面が見られた。10月14日にも、弁護人が「今日はどうしますか? 今日も答えませんか?」と聞き、白石被告は「はい。弁護人の質問には一切答えるつもりはありません」と答え、いったん弁護人からの質問が終了した。結局、この日は、検察官側からの質問だけに答えた。
しかし、翌15日には、前日と同じ弁護人からの質問に「はい」とだけ続けていたが、「最初に合流したときのCさんの印象は?」の質問から、「何か悩んでいるような感じでした」などと答えた。黙り続けるのも疲れるのだろう。ただ、別の弁護人の質問に対しては、「申し訳ないですが、あなたは信用できないので、黙秘します」と述べ、弁護人をコントロールしようとしているようにも見えた。
犯行にも垣間見える考えの浅さ
強い意思表示をするものの、その意思を貫徹できないことは、犯行でも見られる。計画性があると思いきや、考えが浅い場面がいくつもある。
例えば、1人目のAさん(当時21、女性)を信用させようと、「一緒に住もう」と持ちかけたことがあった。2017年8月中旬、Aさんに「失踪宣告書」を書かせるほどの用意周到さがあった。家族が警察に届けても、捜索届を警察に受理させないようにしようとしたのだ。8月23日、片瀬江ノ島駅でスマホを捨てさせることも考えていた。これは、以前に風俗店のスカウトをして職業安定法違反容疑で逮捕された際、携帯電話の位置情報について刑事から聞かされていたからだ。
一方、新しい生活をイメージさせるのなら、新しいスマホ契約の話をしておくほうが信用されるはずだが、白石被告は「新しい携帯電話の契約の話はしていません」と話していた。不自然さが残る流れではある。