薬を飲んだかどうかも「覚えていません」
白石被告の証言によると、Cさん殺害は、やはり所持金を奪うことも目的になっていた。しかし、財布の所在は確認していない。
Cさんを殺害するには、体格がほぼ同じだったために、薬を飲ませて、隙をつこうとした。ところが、弁護人に「Cさんは薬を飲んだかもしれない? 実際に飲んだ?」と聞かれて、「覚えていません」と答えている。飲んだとして、何の薬を飲んだのかもわかっていない。発見された遺体の頭部からは、薬の成分が検出されている。ということはCさんが自ら飲んだのか、飲ませたということだろうか――。
結果的にCさんを殺害し、所持金を奪うことになるが、得た現金は5000円ほどだったという。「まとまったお金」ではないにもかかわらず、なぜ殺害したのか。裁判長の「まとまった現金はいくらぐらいか?」と聞かれて、「当時のイメージでは25万から50万以上」と答えている。その金額を得られるとしても、「人を殺すリスクの見返りがそんな金額なのか?」と唖然とする。それに、Cさんがその日、白石被告に伝えた所持金は「1万円」だった。
奪った5000円を生活費に使ったという一方で、遺体をバラバラにして一部を鍋で煮るなどの処理に「一体5000円ほどかかる」とも証言している。ということは、生活費も残らない。Aさん殺害の証拠隠滅の目的はあったものの、現金を奪うという点では目的はほぼ達成していない。
こうして8月中に3人を殺害することになるが、そもそも白石被告はアパートに入居したばかり。家賃はどうするつもりだったのか。弁護人の質問に、「Aさんとの間では私が働いて、養う予定でした。Aさんを殺害した後は、私が支払うことになりました。(働いていないものの)Aさんから奪ったお金で支払おうと。そしてAさん殺害後は、女性と出会って、お金を引っ張って、集めて、支払おうと思っていました」と答える。行き当たりばったりの犯行だったのが実態だ。
殺害した人とそうではない人との違いは何か?
アパートに入居して、「死にたい」「首吊り士」など5つのアカウントをつくり、殺害した9人のほかにも会っていた白石被告。筆者との面会では「13人に会った」と明かしていた。つまり、そのうち9人を殺害して、4人は生かしたことになる。「1人とは付き合っていた」とも話していた。
私は、殺害することになった人と、生かした人との差は気になっていた。その点を裁判官が「殺害した人とそうではない人との違いは何か?」と質問した。
白石被告は、こう答えた。
「自分に対して好意を持っていて、お金を持っていそうな場合、レイプをせずに、生かして帰しました。長期的にお金を引っ張ろうと思っていました」
白石被告に「好意」を示したか否かで殺害したということなのか。広い意味では、殺害された9人とも「好意」はあったのではないかとも思う。ただ、白石被告にとっての「好意」は、性欲の対象としてでしかないのかもしれない。そして、最終的には「お金」。ヒモになる意思だけは貫いている。身勝手な犯行はどこまで解明されるのか。裁判は12月まで続く予定となっている。
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