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「なぜ私が人殺しの差別者といっしょに…」杉田水脈が泣きながら電話をしてきた日

『保守とネトウヨの近現代史』より #2

2020/10/27
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LGBTはふざけた概念?

 既に「パヨク」の世界では「仇敵」「悪役」「炎上芸人」と化していた杉田は、格好の標的となった。これに『新潮45』編集長の若杉良作は、便乗した。翌月号に間に合わず、10月号で、知っている限りの「保守」言論人に声をかけ、杉田擁護の大論陣を張った。

 その中で、文芸評論家を名乗る小川榮太郎の論稿が、致命傷となった。小川は、「LGBTの権利を言うなら、痴漢の権利も尊重すべきだ」と言い放った。

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 そして、世界中に火の手が広がり、杉田が集中砲火を浴びた。小川は安倍御用言論人としてのみ業界で知られた人物、昔風に言えば「院外団」のような人間である。世間に無視された。問題は、代議士の杉田だ。

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非難の嵐は世界中に広がる

 過去にチャンネル桜で発言した映像が、繰り返し放送され、世界中に拡散された。BBC、アルジャジーラ、あげくのはてには地球の裏のブラジルである。そのすべてが、杉田に批判的だった。既にチャンネル桜とは決別していたが、過去の言説は消せない。そしてチャンネル桜からの離脱後も、同じような価値観を持つ「ネトウヨ」に嫌われまいとサービス的言動を繰り返してきたのも事実だ。それが世界中から糾弾された。

 すなわち、日本の「ネトウヨ」は、BBC・アルジャジーラ・ブラジル国営放送と、およそ一致する価値観を有しているとは思えない人すべてから呆れかえられるほど、幼稚なのだ。

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 もちろん、日本のメディアは杉田を叩く。週刊誌やワイドショーのみならず、NHKまで杉田を差別者扱いした。ちょうど知的障がい者への大量殺人事件があったので、NHKは杉田を犯人と重ね合わせる文脈で報じた。NHKに代表されるメディアは、日ごろは自分たちをマスゴミと罵倒する「ネトウヨ」への意趣返しをしたのかもしれない。

泣きながら相談してきた杉田と支持を続ける“ネトウヨ”

 この時ばかりは、日ごろは気丈な杉田が泣きながら「なぜ私が人殺しの差別者といっしょにされなければ……」と電話をかけてきた。私は「ネトウヨなんて地上波に比べれば風の前の塵です。今は塹壕に籠って耐えるしかないでしょう」と言うしかなかった。

 杉田の応援団の「ネトウヨ」は、ツイッターなどSNSで反論を続けた。自分たちが蟷螂(カマキリ)の斧とは考えもしない。それどころか、このタイミングで伊藤詩織への人身攻撃を激化させた。論外なのは、「事件後の伊藤詩織のカルテ」なる代物を拡散していたことだ。真贋がどうであろうが、そのような行為自体が逆効果であると考えないのだ。

 ちなみにすべての媒体での発信を控えていた私は、杉田を熱烈に支持するかつての仲間からも「臆病者」「裏切り者」として糾弾された。だが、そこで連中の妄動に同調する訳にはいかない。

 では私はその時、何をしていたか。杉田の秘書や、杉田を本気で助けたいと思う倉山塾生とともに新宿二丁目へ行き、杉田をかばってくれるLGBTの人を探した。

 その甲斐もあったか、現在は杉田が政治資金パーティーを開くと、必ずLGBTの人が来るようになっている。