「これまでの日本の社会は高度経済成長を経て、それぞれの人間が自分の利益や成長を追いかけ続けてきました。それがコロナで、緊急事態宣言が発令され、経済活動がいったんストップした形になった。これを機に、これまでの右肩上がりの資本主義とは違う社会になっていくんじゃないでしょうか。
これまで、お笑いの世界も、『いかにとんがったことをやるか』、『いかに誰も発想しなかった角度で漫才やコントをやるか』という、上へ上への考え方でやってきました。松本人志のような天才が頂点にいる世界です。でも、お笑い原理主義を真っ向から否定するわけではなくて、もうちょっと違う“笑いの効用”があってもええんちゃうかと思うんです」
「文藝春秋」11月号のインタビューでそう語るのは、吉本興業会長の大﨑洋氏だ。大﨑氏はダウンタウンの若手時代に才能を見出し、東京に進出させた名プロデューサーとしても知られる。
テレビの「ほころびが見えてきた」
その大﨑氏が、コロナの自粛期間を経た今、お笑いについての考え方が変わってきているという。
「例えば、地方の田舎でおばあちゃん3人組がお菓子を持ち寄って、一日中他愛もないことを喋って笑い続ける、といった種類の幸せがあるじゃないですか。そういう幸せな日常の風景を、日本中で見られるような気分や状況を作りたいんです。歳をとったからなのか、最近は自分自身、とんがった笑いよりも思わず笑顔になるようなものを見たいと思うようになってきました。あんまり大きな声では言えませんが(笑)」
明治創業の吉本は、戦後に家庭用テレビが普及する波に乗って成長してきた面もある。1959年に始まった「吉本新喜劇」も、MBSテレビ開局のタイアップとして生まれたものだ。そのテレビについても、「ほころびが見えてきた」とチクリ。
「最近のテレビを見ていると、芸能人の不倫や離婚がなんとかかんとか……そういう話も世間の人は興味あるのかもしれませんけど、僕なんかは内心、『ほっといたれや』と思って。
芸能ニュースにばかり時間を使わず、もっと前向きなニュースを流してもいいんじゃないですか。もちろん、芸能ニュースを流したほうが視聴率でいい数字がとれて、スポンサーがついて、広告収入も高くなるんでしょうけど。そういうあまりにも資本主義的な、短絡的な考えには、僕自身そろそろ行き詰まりを感じているんです。
ましてやテレビは公共財の電波を使って放送しているじゃないですか。他にニュースで伝えなあかんことはないんかな、と思います。いっぱいあるでしょう、地方でこんなボランティアが足りない、とか」