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首相がいきなり「裸単騎」で出てきてしまった

 本来であれば、菅首相自身が安倍政権時代、「政権の守護神」として矢玉を一身に引き受けるゴールキーパーだったように、かつての菅官房長官と同じような役割をこなすことができる側近が出てくる必要がありました。私は森山裕自民党国会対策委員長が今後そのゴールキーパーの役割を果たすことになっていくと思っているのですが、しかし、日本学術会議の問題では、その体制が整う前に、菅首相がいきなり10月5日にマスコミ3社によるグループインタビューの席で、この問題について「それぞれの時代の制度のなかで法律に基づいて任命をおこなっている」「学問の自由とはまったく関係ない」と発言。さらに6人を任命拒否した理由については「個別の人事に関することについてはコメントを控えたい」と述べ、世論の反発を招いてしまいました。

日本学術会議の新規会員任命を拒否された加藤陽子東京大学教授 ©文藝春秋

 これは明らかな失敗です。首相がいきなり「裸単騎」で出てきて発言するべきではなく、二重三重にも張り巡らされたセーフティネットの中にまず首相はいて、じっと状況を見極めるべきであったと思います。しかし、人間は「上手の手から水が漏れる」もので、官房長官時代に、「攻めの姿勢」でマスコミ対応をしっかりやってきたという自信が仇になった。官房長官のときと同じように振舞ってしまったことで傷口が広がったのです。

官房長官時代の菅首相 Ⓒ文藝春秋

自民党ベテラン議員は「総理はいろんな人と会う頻度をスローダウンすべき」

 いわば、菅首相はまだ官房長官時代を“引きずっている”。この点は、毎日の首相動静を見てもわかります。菅首相は朝からホテルで食事をして、夜遅くまで人と会い続けています。就任から1カ月で会ったのは90人以上。私も10月11日のお昼にお会いしました。菅首相は官房長官時代から独自のネットワークを構築し、様々なジャンルの人と意見交換や交流を重ねてきたわけですが、その生活スタイルを首相になっても続けているのです。

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 菅首相はこれまですべて自分でプランニングして自分で実行に移す、一人完結型の政治をずっとやってきました。しかし、政権運営はチームプレイでもあります。首相がすべてをひとりで抱え込むことはできない。実際、自民党のベテラン議員の中からは、「首相は任せるべきところは任せ、いろんな人と会う頻度をスローダウンさせるべき」と進言する声も多く聞こえてきます。(#2につづく)