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支配的な価値観を揺さぶり、時代を丸ごとつくり変える気概を持つ。これこそ芸術の為すべきことであり、取るべき姿勢と思うがどうだろうか。
クールベの「見たまま、見えたまま、あるがまま」を描くという手法は、続く世代の画家たちが「印象派」と呼ばれる流儀を生み出す起点にもなった。美術史の転換と発展にも大きく寄与しているのだ。
そんなクールベにとって、海とは格好の題材のひとつだったのではないか。千変万化する海面をどう捉えるかは、見たままをいかに絵画に落とし込むかのよきレッスンとなっただろう。また海とは大自然そのものであって、安易なストーリーを寄せ付けない厳しさがある。ありのままを捉える相手として不足なしだ。
取り組むべき強敵とみなしていたからこそ、クールベは海を繰り返し、繰り返し描いた。
今展は、クールベの海の絵画を中心に据えたもの。他にモネやミレーらの海の絵画も含めて、約70点を展示している。
「見たまま」「ありのまま」を標榜するクールベ作品は、やや派手さやネームバリューに欠けるきらいがあるかもしれない。でも、それでいいのだ。
モノも人も、世界的な移動に制限がかかってしまう時代である。著名な目玉作品を海の向こうから運んでくる「お祭り」めいた展覧会よりも、作者や企画者の思いや狙いがしかとある展示のほうが、きっと時宜に適っているだろう。
INFORMATION
クールベと海 −フランス近代 自然へのまなざし−
2020年9月11日〜2020年11月3日
山梨県立美術館 特別展示室