声紋の一致だけで逮捕状が出たという実例も
ーー刑事事件に関しては、警察や検察からの依頼がメインに?
鈴木 そのパターンもありますし、無実を訴える被疑者の家族や弁護士から依頼される場合もあります。やはり状況的に怪しかったために捕まってしまう方がいらっしゃるんですね。で、逮捕の根拠になった録音を分析してみたらまったく別人だったということは少なくないです。
ーー指紋や筆跡と比べて、声紋は裁判証拠としての確度はどのような位置にあるのですか。
鈴木 指紋よりも下で、筆跡よりも上です。指紋は変えられないけど、同じ人が「こんにちは」を高いキーと違うイントネーションで言うとそれぞれ声紋の紋様が少し変わってくる。そういった意味で恣意的に変えられるので、どうしても指紋よりは低くなる。
ただ、口腔の容積や「あのー」といった意識せずに発してしまうものに関しては、筆跡よりは変えがたいところが多い。なので、筆跡と指紋の間になるんです。裁判所の判断になりますが、指紋や筆跡がなくても声紋の一致だけで逮捕状が出たという実例もあります。
ーー声が関わる刑事事件というと、最近ではオレオレ詐欺が主流になりそうですね。
鈴木 そうですね。オレオレ詐欺の鑑定分析もしていますが、どういう人物であるかという犯人のプロファイリングが中心です。身長はどれくらいか、顔の形はどんな形か、年齢はいくつくらいか、方言があったらどの地域の出身か、ある程度の長い録音であればどんな職業に就いていたか、声でおおよそのことが判明しますから。
それ以外だと、警察が被疑者の声を録って犯行の電話の声と同じかどうかを調べる声紋鑑定も行っています。
ーー警視庁、警察庁から依頼されるのは、科学捜査研究所よりも音響研究所のほうが技術的に優れているからなのでしょうか。
鈴木 いやいや、そんなことはないです。某県警の科捜研は音声分析、声紋鑑定に関してハイレベルだみたいな話はありますが。ただ、科捜研はやっぱり公務員なのでどうしても転勤や異動がある。経験を積んでベテラン技官になったと思ったら、管理職になって転勤というのが珍しくない。そうした異動と交代でバタバタしていて、ちょっと作業するのが大変というときに持ち込まれることがあります。
あとは、被疑者の身柄を抑えたけど時間がない場合ですね。警察は勾留期間が2日、検察は勾留延長しても二十数日ですよね。その間に結論を出さなきゃいけないのに、科捜研が詰まっていて断られたり、科捜研に出す許可が上から降りるのに時間がかかる時は、「やってくれ」とうちに来ます。