1984年3月から1年半にわたり、“かい人21面相”を名乗る犯人がグリコや森永製菓をはじめとする複数の食品会社を脅迫した“グリコ・森永事件”こと警察庁広域重要指定114号事件。

 マスコミ各社に次々と送りつけられた警察を挑発した挑戦状、青酸ソーダ入りの菓子をばら撒くと予告して国民を人質にしてしまった大胆な犯行は“劇場型犯罪”と呼ばれた。

 捜査員が目撃した犯人グループの一員とされる“キツネ目の男”、青酸ソーダ入り菓子をコンビニエンスストアに置く姿を防犯ビデオに捉えられた“ビデオの男”などが強烈な印象を残したが、少女や男児の声による脅迫テープは子供が犯罪に使われるという異様さも相まって人々を震撼させた。

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 日本音響研究所の所長を務める鈴木創氏(49)は、“子供の声”を分析した音声分析・声紋鑑定の第一人者である鈴木松美氏(79)を父に持つ。当時、少年であった創氏には“子供の声”はどう聞こえたのか、音を通して事件に挑む父の姿はどう見えたのか、話を伺った。(全3回の1回目。#2#3を読む)

鈴木創氏

無機質さ、異様な感じは、子供心にも非常に怖いなと感じましたね

ーーグリコ・森永事件でお父様の松美氏は、

・1984年3月18日に犯人グループによって誘拐されたグリコ社長江崎氏が吹き込まされたテープ
・1984年4月24日にグリコ監査役宅に電話でかかってきた少女らしき声を録音したテープ
・1984年9月18日に森永製菓関西本部に電話でかかってきた男児らしき声を録音したテープ
・1984年11月14日にハウス食品工業北大阪出張所に電話でかかってきた男児らしき声を録音したテープ

 の音声分析を行っています。

 事件が起きた当時の創さんは12歳で中学1年生。同じ子供として、あの声を耳にしたわけですが……。

鈴木 グリコ・森永以前に父がいろいろな案件で分析していた音声というのは、会話として成り立っているものがメインだったんです。誰かと誰かのやりとりから、心理状態をはじめとしたさまざまな情報を引き出せるわけですが、これらグリコ・森永に関しては録音したものを電話で一方的に流しているので、受け取る側はなにを言っても無反応のままに終わってしまう。その無機質さ、異様な感じは、子供心にも非常に怖いなと感じましたね。