鉄の蓋の上を車が走っていく「タタン」という音まで一緒
ーー採取した京都の少女の声紋と脅迫テープの声を比較したところ、酷似していたとお父様は仰っています。ただし、成長によって声が変わってしまった可能性があるので100%とは言えないと。
鈴木 あの脅迫テープに入っていた、声以外の音も非常に似ていたそうです。小学校か公園のような場所で子供があげている歓声、道路の側溝にはめるグレーチングという鉄の蓋の上を車が走っていくタタンといった環境音が入っていたのですが、母娘の住むマンションもそうした音が生じる環境にあったそうです。
ーーにもかかわらず、京都の少女は本格的な捜査対象にはならなかったようです。さらに母親は後に結婚した男に刺殺されてしまったとの話があり、少女もどうなったかわからないという……。
鈴木 京都の少女とテープの少女が同一人物であるかどうかはわかりません。でも、ふたりが中学生だった私と同年代であったことにはショックを受けましたね。また、大人である犯人のエゴによって足がつかないようにする細工に利用されたのも許せなかった。
裏を返せば、それだけ効果的だったんですよね。分析をしても声変わりなどで、完全にたどり着くまで長い時間が掛かるわけですから。なので、憤ると同時に非常に頭が切れるというか狡猾な連中だなとも子供心に思いました。
それとやっぱり怖かったですね。父がかなりのところまで足を踏み入れて調査したわけで、そこから犯人が尾行してきてホテルにいた私ともども拉致されたりしたかも……なんて、帰ってから考えました。
ーー拉致こそされませんでしたが、1985年1月16日に大阪の報道機関へ届いたかい人21面相からの挑戦状にお父様に宛てたメッセージが記されていました。
鈴木 「音きょう研の すずきくん かがく そうさ しっかり やってや」ですね。これ以外にも、「森永の こどもの 声は 小がく2年の 男の子と 女の子や」「わしらの ナカマの かぞくと ちゃう かぞく つこたら ばれるの きまっとるや ないか」とも書いてありました。父は「こんな反応はしなくてもいいのに、あえてしてきたのはどういうことなんだろう」って話していました。
当時、父は在京キー局のワイドショーからテープの分析を頼まれて出演もしていました。そうしたなかで、かなりのところまで真相に近づいていて、それに対する焦りの表れなのではないかと。そして、これ以上調べたら大変なことになるぞという脅しでもあると。
最終的にはかい人21面相からの警告だと捉えたようで、近くの警察に警備をお願いしていましたね。私も父からどこにも寄り道しないでさっさと学校から帰ってきなさいときつく言われました。