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「ちょっとここから先は…」グリコ・森永事件、脅迫テープの声の主“京都の少女”に父はこんなに接近していた

日本音響研究所・鈴木創氏インタビュー #1

2020/11/01
note

リアルタイムで声紋の波形が見られるし、ノイズも削除できるように

ーー2011年7月29日・30日に放送された『NHKスペシャル 未解決事件 File.01 グリコ・森永事件』では、お父様と創さんが

・1984年4月24日にグリコ監査役宅に電話でかかってきた少女らしき声を録音したテープ
・1984年9月18日に森永製菓関西本部に電話でかかってきた男児らしき声を録音したテープ
・1984年11月14日にハウス食品工業北大阪出張所に電話でかかってきた男児らしき声を録音したテープ

の音声を再分析しています。

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 グリコの声の主に関しては、小学6年生から中学1年生までの少女。小学校低学年の同一男児だとされていた森永とハウス食品の声の主は、小学校低学年の男児と就学前の児童のそれぞれ別人であったことが判明しました。この結果が出せたのは、やはり技術の発展によるものだったんですか?

 

鈴木 そうですね。事件が起きた80年代は、すべてがアナログでしたから。持ち込まれるテープも、いわゆるオープンリールと呼ばれる6mmテープ。ソナグラフという周波数分析装置を使っていましたが、それは円筒形のドラムに巻きつけた紙に声紋を描くもので4秒間の音を分析するのに4分間かかっていたんですよ。

 デジタル化されてからは、リアルタイムで声紋の波形が見られるし、かなりのノイズも削除できるようになりました。そうしたものを使って再検証したので、ああいった結果が出せたんです。他のテープも分析したら、新たにわかってくることがあったかもしれませんね。

あの時はやり尽くしたと言いきれるほど、いろいろとやりました

ーーあれから9年が経っていますが、いま分析したら新事実が判明する可能性は?

鈴木 事件が起きていた1980年代と2011年では、技術の差は凄まじく大きいものがありました。でも、現在と9年前の技術にたいした差は無いんですよ。だから、いま分析をやってもなにも出てこないとは言わないけど、あまり見込みはないです。それほど、あの時はやり尽くしたと言いきれるほど、いろいろとやりました。

 

ーー放送当時、犯人とか声を吹き込んだ少女と男の子たちが番組を観ているのではないかと思いませんでしたか?

鈴木 観ていたんじゃないですかね。まだ幼かった男の子たちはわからないけど、少女は私と同じ10代だったわけでなにか吹き込まされていると意識していたはずです。「名神高速道路を85キロで吹田のサービスエリアまで走れ」とか言わされたなっていう記憶はあるんじゃないかなと。

 だからこそ、あの声は私のものですと言い出せないとも思いますが、なにかグリコ・森永事件を扱った番組が放送されるたびに観てしまうんじゃないでしょうか。

【続きを読む】黒塗りの車がグルグル、国会議員が「数億円渡すから」と…一家が「命の危険」を感じた事件の顛末

【参考文献】
▽鈴木松美「音の犯罪捜査官 声紋鑑定の事件簿」徳間書店 1994年
▽NHKスペシャル取材班「未解決事件 グリコ・森永事件捜査員300人の証言 」文藝春秋 2012年
▽「FOCUS(フォーカス)」 2000年2月23日号

写真=平松市聖/文藝春秋

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