すべてはこの男の出所がきっかけだった。ちょうど1年前となる2019年10月18日、約5年4カ月の恐喝事件の刑期の満了を迎えて、6代目山口組若頭の高山清司が、東京の府中刑務所を出所した。

「若頭」とは暴力団組織のナンバー2である最高幹部を意味する。山口組分裂による対立抗争の真っ只中での若頭の出所だけに、出所後の一挙手一投足に注目が集まった。それは警察と6代目山口組との「新たな暗闘」の始まりだった。

府中刑務所を出所し、JR品川駅に到着した6代目山口組の高山清司若頭(中央) ©️時事通信社

警察が厳重警戒「異例の出所」

 10月18日早朝、府中刑務所の門前は異様な雰囲気に包まれた。

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 刑務所の周囲をパトカーが巡回し、出動服に身を包んだ多くの警視庁の機動隊員が警戒にあたっている。駆け付けた報道陣がひしめき合う状態のなか、午前6時ごろ、高山を乗せたワゴン車が門前に現れると、カメラマンたちのストロボの閃光が一斉に瞬いた。

 高山の出所は、当日の早朝からテレビ各局のニュースで伝えられ、一般紙の夕刊では、暴力団関係の記事としては異例のスペースを割いて報じられた。

府中刑務所を車で出る、6代目山口組の高山清司若頭(左) ©️共同通信社

 通常、暴力団の最高幹部が刑務所を出所しても、一般紙に報道されることなどないが、高山の場合は違った。出所のわずか8日前には、神戸市内で、6代目山口組側の最大勢力である弘道会系幹部が、神戸山口組の中核組織、山健組系組員2人を射殺する事件が発生するなど、死傷者が出る対立抗争が相次いでいたのだ。

 つまり、高山の出所は一般市民も知るべき“事件”だった。警察当局は高山を狙った報復があるのではないかとして警戒は厳重を極めた。

 高山の出所のスタイルも“特別扱い”だったという。刑務所での服役、出所を何度も経験している指定暴力団幹部が語る。

「最近では、早朝の出所というのはまず許されない。刑務所の職員が出勤してきて態勢が整った午前8時前後というのが一般的だ。『出所の出迎えは数人、車は1台限定』などと制限が厳しい。午前6時は事実上の特別扱いだろう。今回のように注目されている最高幹部の出所となればマスコミも集まる。近所に迷惑がかかるなどの理由をつけて、早朝出所を許したのだろう」