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出所後、追跡した刑事たちの焦り

 警察の活動は、フル装備の機動隊の配置、パトカー巡回による出所直後の不測の事態への警戒だけではなかった。

「出所後、どこに向かうのか」「出所後の活動をどのように考えているのか」……。警察当局の組織犯罪対策を担当する捜査幹部の厳しい視線が、高山に注がれていた。

 警察が事前に入手していた情報は、府中刑務所を出た後は車で移動し、「JR品川駅で新幹線に乗車し、名古屋方面に向かう」というものだった。

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 山口組総本部があるのは神戸市。高山の出身母体の弘道会の本部は名古屋市。新幹線で西に向かうことは警察当局にも容易に推測できた。情報では、目的地は名古屋だったが、その後に向かう先は不明だったという。

 JR品川駅に到着した高山は、刑務所に出迎えに来ていた6代目山口組幹部らとともに新幹線に乗車。追尾していた警視庁の捜査員も同乗し、高山らがJR名古屋駅を降りたところで愛知県警の捜査員が引き継ぎ再び追尾を始めた。

府中刑務所から車で向かったのは品川駅だった(写真はイメージ) ©️iStock.com

 山健組系組員が射殺された事件が発生したことで、神戸市の山口組総本部も、名古屋市の弘道会本部も、警察当局によって使用が制限され、立ち入ることができなかったため、高山の向かう先は当日まで不明だった。警察当局の幹部が語る。

「神戸の本部を使えない状態で高山がどこに腰を落ち着けるのかを確認することは重要なことだった。名古屋に向かうだろうとのことで追跡したところ、弘道会傘下の組織の施設に入ることを確認できた。高山に馴染みのある組織だったので、落ち着ける場所だったのだろう」

名古屋駅(写真はイメージ) ©️iStock.com

 その弘道会傘下の施設に入るまでの間、高山は公共交通機関で移動したため警察当局は緊張を強いられた。新幹線ホームなどは不特定多数の乗客が行きかうため、不審者が紛れ込んでいた場合には特定することは困難な上に、新幹線利用者がいる場所で銃撃事件が起きれば、民間人が巻き添えとなる可能性がある。

 これまで山口組の内紛で一般市民が銃撃の巻き添えで死亡したケースもある。警察にとって、一般客の往来のある公共スペースでの事件発生は決して許されることではなかった。