TV黄金の時代が始まると同時にヒットメーカーに
ところでGSといえば、一連の、ザ・ジャガーズに提供された官能的快感溢れる作品群もさることながら、見逃せないのが、ザ・ガリバーズの『赤毛のメリー』だ。京平さんの作風というのは、基本、あまり聴き手にナゾを残さないのだが、これは珍しく変な曲だった。無意味な転調が施されていたりするのである。
ただ、いずれにせよ作曲家としての本格的大ブレークは、まだもう少しあとのこと、GSブームが去ってからだ。
'70年代に入り、アイドル全盛の、いわゆるTV黄金の時代が始まると同時に、筒美京平は、その本領を発揮し始め、あれよあれよというそれこそ瞬く間に、驚異のヒットメーカーとしての“不動の地位”を、ほしいままのものにしてゆくのである。
そこには無論、放送局や出版会社など、音楽そのものとは直接関係のない要素も絡んでいない訳ではなかっただろうが、そちらの事情については、私は疎い。ここはあくまで“表現”のことに的を絞って話をしていこうかと思う。
といって、筒美京平には何か秘密なり特別な秘訣なりがあったのか? そこは私にも何ともいえぬ。ここではとりあえず思いつくままに、あれこれ述べてゆくこととしよう。
ビートルズをバート・バカラック風に仕立てる企画
全作品を通じ一貫して感じられるひとつは――先にザ・ジャガーズに触れた折にも書いた――官能的(具体的な説明は後ほどするが)だということである。
他方、楽典的解釈に耐え得る論理的構造を必ず有するということも挙げられよう。
専門職としてのルーツに関して、着目しておきたいのが、若かりし頃制作された、ビートルズをバート・バカラック風味の音に仕立て上げるという企画のアルバムである。
その音を聴き、思うのは、ビートルズとバカラック、水と油といってもいい音楽性を持つ二者を、無理なく融合させるにあたり、編曲者筒美京平の苦労は如何ばかりであったかということだ。相当な研究/解析を余儀なくされたことは想像に難くない。この仕事を通じ体得したものは大きかったのではないだろうか?
殊に、バカラックのアカデミックな音楽センスに触れたことは、その後の筒美京平の編曲面における、幅を広げ奥行きを深めるのにも、大いに役立ったに違いない。これはあくまで私見ではあるが……。
素晴らしき作曲家であると同時に、優れた編曲家であったことは、筒美京平を語るとき触れぬ訳にはいかぬ大切なポイントだと思うのであるが、かかる文脈において、珍しくアレンジャーとしてのみクレジットされた、ザ・スパイダース『真珠の涙』などは貴重な資料といっていいと思う。