背番号6に対する巨人ファンのある変化
映画は冒頭10分とラスト10分が盛り上がれば、それなりに面白く見える。
大学時代、映像学科のシナリオ授業でそう言っていたのを思い出す。皆さんの恋愛だって同じですからね。すべてが終わる頃には、出会いと別れしか記憶にないでしょう? なんつって教授は笑ったのだった。これはプロ野球のペナントレースとも似ている。ファンの印象に強く残るのは開幕直後とペナント終盤の戦いぶりだ。たとえ途中で13連敗しようとも、最初と最後が形になればなんとかなる。開幕5連勝で始まった2017年の巨人は、途中の大型連敗でBクラスに沈んでいたが、現在残り10数試合という段階でDeNAと熾烈な3位争い中である。
そんな状況で、夏場から苦しんでいたのが坂本勇人だ。開幕からショートを守り、コンスタントに月間打率3割以上をクリア。6月は.346、右打者史上最年少となる28歳6か月での1500安打を達成した7月も.352と不動の3番打者としてチームを牽引していた男が、8月には.221と急降下。9月も不調は続き一時はシーズン打率2割台へ落ち込んだ。昨季は初の首位打者とゴールデングラブ賞を獲得。オフにはチーム最高年俸となる推定3億5000万円で契約更改したスペシャルワン。そして、迎えた今季は1か月不調なだけで「坂本が打てないから負ける」と言われるまでになった。チームが負けたら真っ先に叩かれる背番号6。誤解を恐れず書けば、この状況が妙に嬉しかった。だって、ようやくだ。遂に坂本はプロ11年目でそういう立ち位置でプレーする選手になったのだから。
原巨人時代、すべては阿部に懸かっていたあの頃
これまでは、常にその巨人を背負うポジションには偉大なる背番号10がいた。2013年の日本シリーズを覚えているだろうか? 3勝4敗で楽天に惜敗したシリーズの勝敗を分けたのは、キャッチャー阿部慎之助の22打数2安打で打率.091、本塁打0、打点1という極度の打撃不振だ。当時、解説者やマスコミは「大黒柱の阿部が打たないから負けた」という論調だったし、実際に仙台へ行って試合観戦をしていた観客席の自分も「そりゃあキャプテンがこれだけ打てないなら負けるよな」なんて悔しさの中で妙に納得したのを覚えている。なぜなら、原巨人は完全に阿部のチームだったからである。まさに代えの利かない最強で最高のストロングポイント。これまで俺ら背番号10にはさんざんいい思いをさせてもらった。だから、阿部で負けるならしょうがない。日本一を逃した夜、そう思った。
あれから4年、2017年終盤は気が付けば「そりゃあ坂本がこれだけ打てない試合は負けるよな」と言われる日々。話を戻すと、13年日本シリーズで背番号6は全試合スタメン出場しながら、打率2割ジャストで打点0の打撃不振。……にもかかわらず、真っ先に敗因として名前が挙がるのは頼れる先輩捕手だった。でも、今はショート坂本がスランプに陥ると、あの頃のキャッチャー阿部のような立場で賛否のステージに立っている。これはある意味、15年シーズンから主将の座を継承し、巨人がここ数年目指していた、「阿部のチーム」から「坂本のチーム」への世代交代を果たしたといっても過言ではないだろう。