日本の医学界の頂点に君臨する「東京大学医学部」。だが、iPS細胞の山中伸弥教授やオプジーボの本庶佑特別教授を擁する京都大学に対し、東大医学部からはいまだにノーベル医学賞受賞者が出ていない。

「世界に認められる研究を行うには、東大教授を5年に1度は総とっかえすべきだ」と東大医学部OBで受験のカリスマとしても知られる精神科医・和田秀樹氏は主張する。東大医学部が変わるためにはどうすべきなのか。『東大医学部』(ブックマン社)の共著者、ジャーナリストの鳥集徹氏と語り合った。(全3回の2回目/#3に続く)

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東大教授は「偉い」?

鳥集 なぜ、東大医学部が既成の概念をぶっ壊すのではなく、むしろ時代と逆行するような組織になってしまったのでしょうか。

和田 それは教育が悪いんです。つまり、東大教授は「偉い」ということになっているから。ほとんどの学部が権威主義に陥り、東大教授になることが目標になっている。ただ、物理とか数学だけは例外で、宇宙や数の真理を探究することが目的で、本当にできる人たちが集まっている。彼らの目的は東大教授になることじゃないんですね。だから、東大でも医学部からはノーベル賞学者は出ないけど、物理学からは出るんです。研究の雰囲気が医学部とはまったく違う。上が下に特定の考え方を押し付けたりしない。変なことを言う人のほうが、おもしろいと言われる。

鳥集 物理や数学はすごい発見があっても凡人には理解できません。相対性理論が応用されているGPSや高度な数学が応用されている暗号技術などは別として、すぐに社会に還元できる研究は多くないかもしれない。たとえば物理学に「超ひも理論」というのがありますが、素粒子が実はひもでできていて、11次元に折りたたまれていると言われても、チンプンカンプンです。

 それでも、そういう宇宙の真理を追究する学問は大学でやるべきだと思うんですが、それに比べて医学はダイレクトに社会に貢献できる研究が多い。国民に平等にマスクを配るシステムを迅速につくった台湾のIT大臣オードリー・タンさんのような天才が、東大医学部から出てきてほしいと思うんです。そういう社会に貢献できる人を育成するのが、東大医学部の一つの目的であるべきだと思うんですが。

オードリー・タン氏 ©AFLO

課題の出し方が悪すぎる

和田 これだけ合格者の最低点が高いことから見れば、課題の与え方さえよければ、いい答えを出せると思いますよ。そもそも東大医学部の教授は、本来は研究のプロデューサーであるべきだと私は思ってるんです。ところが、それができていない。たとえば故スティーブ・ジョブズはIT技術者でもなんでもなくて課題を出す人なんです。「こんな電話つくってよ」とか、「こんなオーディオつくってよ」と。そうすると優秀な技術者たちは、与えられた課題がおもしろければ、チャレンジするわけです。

鳥集 優れた教育者やリーダーというのは、最初から答えのある課題を与えるのではなくて、答えはないけれど「これを解いたら、ものすごく面白いよ」と後進を鼓舞できる人なんでしょうね。

和田 そうだと思います。ところが、今の日本の医学では、確実に「有意差」が出るような研究をしないと博士号がとれない。それでは、いいアイデアなんて出るわけがないんです。