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エリート高校で進む“東大離れ”…それでも「理Ⅲ合格者」を大事にした方がいいワケ

和田秀樹×鳥集徹 『東大医学部』対談 #3

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和田 せっかく東大法学部を出たとしても、小学校から成蹊のボンボンみたいな人の言いなりにならざるを得ないわけじゃないですか(笑)。人事権も政府に握られてるわけだし。これは東大の医局に入って、医者がやる気をなくすメンタリティと同じです。

“東京の金持ち”は慶應幼稚舎に入れたがる

鳥集 理Ⅲや文Ⅰに入れるような英才の中から、多くの患者を救う医学研究者や、立派に国を導いてくれる官僚や政治家が出てくれないと、私たちは困るのです。ところが、同じ世代の100人に1人もいないような英才たちを、東大は活かしきれていない。そもそも私が子どもの頃は、「日本は戦争に負けて資源もないから、知的立国や技術立国にならないと、国際社会で生き抜いていけない」と言われていました。ところがバブル崩壊以降、日本の国力は落ち続け、いまや中国に抜かれて太刀打ちできない。

北京大学 ©iStock.com

和田 そうです。世界の大学ランキングを見ても、日本は中国やシンガポール、香港の大学に負けている。中国の大学に抜かれた時点でもっと危機感を持たなきゃいけないのに、受験勉強をしたことのないような世襲の政治家ばかりになってしまったせいか、誰も問題だと思わない。

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 それに東京の金持ちって、みんな慶應幼稚舎に入れたがるでしょ。慶應幼稚舎なら受験で苦労しなくてもエスタブリッシュメントの友だちができるから、東大に入れるよりいいと思ってるんです。東大を出て官僚になったって、世襲の政治家にこき使われるだけ。だったら、こき使う側と友だちになったほうがいいという発想なんですよ。地方に行ったら行ったで、教育熱はガタ落ち。東京に勉強にやったら田舎には帰ってこないですから、田舎の大人たちは自分の子どもたちを東京の大学には行かせたくないんです。

恐ろしい勢いで国力が転げ落ちている

鳥集 資源もない日本がこれからどうなっていくのか、子を持つ親としては本当に不安です。知的な活動で価値を生み出さなければ立ち行かない国であるはずなのに、国の将来を見据えた教育が考えられていない。

和田 30年前とか40年前は、日本の中卒や高卒の人の優秀さは世界一だったんです。だから日本は故障のないものを作っていた。ところが私は今、日本製のスマホを使っていますが、故障だらけです。恐ろしい勢いで国力が転げ落ちている。よくネットでは、ジャパネットたかたの息子は東大なのに、創業者の高田明さんは大阪経済大学だとちゃかして書かれるんだけど、団塊の世代の大阪経済大学がどれだけ難しかったか。

 50年前は大学の定員が同世代の10~15%しかなかった時代です。つまり、クラスで上から6分の1にいないと大学自体に行けなかった。しかもみんな熱心に勉強していました。私たちの子ども時代は、「日本には人しか資源がないんやから、お前ら勉強せんかったら、この国はボロボロになるぞ」って教わったじゃないですか。

©️iStock.com

鳥集 私もそう教わって育ちました。私の子ども時代も、日本が敗戦でゼロになったという空気がまだ残っていました。敗戦のとき小学校6年生だった父親も、日本が焼け野原から這い上がっていくのを見てきた。それに父親は、本当は大学に行きたかったけど、家が貧しくて高校中退せざるを得なかった。だから、自分が行けなかった悔しさを息子にぶつけて、「勉強しろ」とよく言われました。いずれにせよ我々の子ども時代までは、自分の知識や技術でこの国を背負っていくという気概があった。でも、今の親や子どもたちがそれを持っているのか疑問です。