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和田 イギリスの社会学者で知日派のロナルド・ドーアも書いていますが、昔は、小説家の松本清張なんかのように、家にお金がなくて尋常小学校しか出ていないけど、頭のいい人がいっぱいいた。ノンフィクション作家の佐木隆三も、高卒で八幡製鉄に入って労働組合の活動をするわけですが、「そこが自分にとって大学だった」と書いています。そういう大学を出ていない優秀な人たちが一流大学を出た役員たちとやりあって、議論で打ち負かしていたんです。

 みんなが勉強して高め合って、議論して知恵を出し合う社会が理想なのに、今は経済格差もひどくなった。都会で裕福な人たちは子どもの教育にお金をかけられるけど、経済的に苦しい人たちや地方に住んでいる人たちはそれができない。二極分化していることも問題です。

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東大教授になったら「勝ち」ではない

鳥集 幼児の頃から教育にたくさんお金をかけてもらって、東大をはじめ有名大学に入る経済力のある家庭の子どもがいる一方で、食べていくのが精いっぱいで、子どもの教育に十分なお金をかけられない人たちもたくさんいます。コロナ禍の影響もあって、経済格差がますます広がっている。そうした社会問題を解決するためにも、東大医学部に入れるような能力のある方々には、知恵を出していただきたいですね。

和田 東大理Ⅲに入った100人をなぜ大事にしたほうがいいと私が言うかというと、100人が社会の指導者になって、やっぱり頭のいい人はすごいなと世間が思うようになってくれれば、みんな勉強するようになると思うんです。

 ところが、東大医学部の中に、教授になってから何か変えてやろうという人がいない。なぜなら、東大教授になることが目的で、東大教授になったら「勝ち」だから。「教授になったら、俺はこんなことするぞ」という志のある人は教授になれない。そういう人たちは、現役の東大医学部教授にとっては、権威を脅かす存在でしかないから。そこが一番の大きな問題だと思うのです。

鳥集 まるで平安貴族というか、現代の藤原氏といった感じですね。「受験界の頂点だから」「医者なら食いっぱぐれがないから」といった理由ではなくて、日本の将来のためにも、こうした旧態依然としたシステムを変えてやるという志のある人に、東大理Ⅲをめざしてほしいと思います。

東大医学部

和田 秀樹 ,鳥集 徹

ブックマン社

2020年9月16日 発売

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