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 満州の面白いところって、「王」がいないところだと思うんです。トップに立っている人間がいない。愛新覚羅溥儀という皇帝もいるにはいましたが、実質的には傀儡でした。そういう混沌とした環境の中では、のし上がっていきたいと思う人間が出るのは当たり前なのかなと思います。

 しかも当時の満州って多民族が入り混じっているんですよね。日本人、中国人、モンゴル人……いろんな民族が絡み合って、そこにいろんな文化があって。衝突したり混ざったりしながら、それがドラマになっていった。それはまさに満州ならではのことで、しかも戦争中。そうなると「誰がこの国の頂上をつかむんだ」という争いは絶対にあったろうなと思いますし、そこでお金も後ろ盾もない一兵士がたどり着くとしたら、アヘン密売というのがひとつの答えなのかな、と考えたんです。

満州軍にはアイスホッケーチームもあった ©文藝春秋/amanaimages

人はなぜ薬物に手を出してしまうのか?

 薬物を扱う作品を描くにあたって、「最初、使う側がそこに手を出す時ってどういうときなんだろう」といろいろ考えたんですよ。よく「心が弱っている時だ」とか、いろいろ言うじゃないですか。でも、やっぱり僕としてはそこに「売るプロ」がいて、その手腕がすごすぎるんだろうというのが一番の理由なんだと思ったんです。

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 どういう精神状態の人に、どうつけこめば買わせられるか。どうしたらリピートさせられるのか――そういう部分を熟知しているプロが必ずいる。そこを根絶しない限りは、おそらく薬物の蔓延はずっとなくならないのかなと思います。

 近年よく芸能人やタレントの薬物逮捕が報じられています。

 でも、それも結局有名人だから報道されるのであって、そういう人は社会にたくさんいるんだと思います。社会というものが存在する以上、そこから零れて行ってしまう人は一定数いて、そうなるとそこに手を差し伸べてくる悪人がいて……というシステムができあがっていますよね。「売る側」がうまくすり寄ってくるわけです。

作中では、最初は気弱な青年だった主人公が徐々にアヘン密売に手を染めていく。 『満州アヘンスクワッド』第1巻より ©門馬司/鹿子  講談社