前スポーツ庁長官、鈴木大地氏が、千葉県知事選への出馬を断念した。
元首相であり現在は東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗氏が反対したことが直接のきっかけと言われている。
立候補から断念まであらゆる決定が唐突で、なんとももやもやする結末となったが、その陰で鈴木氏の政治家としての資質について多くのクエスチョンマークも飛び交っていた。人柄的に県をまとめていくようなタイプではないのでは……、そんな声が挙がっていたのだ。
今でも鈴木氏の名前を聞くと、前スポーツ庁長官というよりも、1988年のソウルオリンピック100m背泳ぎで金メダルを獲得した“バサロ泳法”を思い出す人も多いだろう。
近年は日本がオリンピックで水泳のメダルを大量に獲得するようになったので忘れがちだが、1988年の金メダルは現在よりもはるかに大きな価値を持っていた。
優勝候補の本命ではなかったが、決勝レースでバサロキックを大幅に増やす戦略も劇的だったし、日本人離れした陽性のキャラクターと甘いマスクで国民的スターになった。
鈴木氏がスポーツ庁の初代長官に就任したのも、この金メダルを抜きにしては語れない。
しかし実は、鈴木氏の評判は芳しくない。
「上には受けがいいが、下からは支持がない」
そう語るのは、スポーツを中心に取材してきた一般紙の記者である。
「とても明るい人柄で、初対面でも気さくに話してくれて取材も雑談もとても和やかに進むので、第一印象は最高でした。ただ会う回数が増えるにつれて、イメージは変わってきました。とにかく“俺が俺が”なんです」
そして記者は、こう続ける。
「現役引退後、プールではなく海や川を泳ぐオープンウォータースイミングの普及に鈴木氏が力を入れていた時期がありました。その取材に行ったのですが、何を聞いても答えるのは自分の現役時代の話ばかり。自分がいかに頑張ったか、どうやって金メダルを獲ったか……。オープンウォータースイミングを売り込むせっかくのタイミングのはずなのに、本当に普及させたい気持ちがあるのか疑ってしまうほどでした。スポーツそのものより、自分への興味が強いんです」