引退後には順天堂大学の講師から教授にまでなり、水泳部の監督を任された。日本水泳連盟の会長を務めた時期もある。一方で、日本代表の監督やコーチに選ばれたことはない。その事情を、ある日本水泳連盟関係者が語る。
「現場で教えるのには向いていないのでは、という懸念があったのは正直なところです。選手を指導するというのは、毎日プールに通って小さなことを積み重ねていく地味で地道な作業です。でも順天堂大学水泳部での話を聞いても、どうもそういう作業が得意とは言えないようでした。むしろ会長や長官のような、脚光を浴びる立場を本人も好んでいる感じがありましたね」
ある五輪メダリストを育てたコーチが、優秀な指導者の条件を聞かれて「自身の欲より選手の活躍を楽しめるかどうか」と答えるのを聞いたことがある。その観点からすれば、鈴木氏は指導者としての適性に疑問符がついてもおかしくはない。
今回の千葉県知事選への立候補についても、水泳界の雰囲気は微妙だったという。
「政治に置き換えて考えたら、知事になる人には千葉県の人たちを第一に考えてほしいじゃないですか。役所の人たちにとってもそうです。地元より国とか、上ばかり見ている人だと感じれば、信頼するのは難しい。上司にはしたくないタイプだと思いますよ」(同前)
実際にスポーツ庁の長官は5年の任期を完走し、自民党政権内での覚えもめでたい。苦笑交じりでこう続けた。
「あのキャラクターですから、年長者への受けが本当にいいんですよ。スポーツ庁長官になったのも、森さんの引き立てがあってのこと。今回の県知事選にしても、最初は立候補を後押ししていたはずの森さんが反対に回ったのは、対立候補の熊谷俊人・現千葉市長に勝てないと思ったからでしょう。かわいがられている証拠ですよね(笑)」(同前)
スポーツ庁長官から県知事への挑戦はお預けになった鈴木氏だが、「大物」たちの間を渡り歩く術は健在。次はどんなポストを狙っているのだろうか。