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ドラゴンズを支える“大福丸” 祖父江大輔はコツコツ働く人たちのヒーローだ

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/11/05

 投げた。腕もちぎれよとばかりに投げた。DeNAの「竜殺し」オースティンにタイムリー2ベースを打たれて2点差。打席には2年連続本塁打王のソト。怖い。動悸が止まらない。4球目、弾き返された鋭い打球は広い広いナゴヤドームのフェンスギリギリ手前で平田良介のグローブに収まった。

 勝った。ドラゴンズファンの悲鳴が安堵のため息に変わる。11月3日の対DeNA戦。8年ぶりのAクラスをかけて、まさに崖っぷち、土壇場の試合で、ドラゴンズは薄氷を踏み抜きそうな勝利を収めた。

 最後にマウンドに立っていたのは祖父江大輔だ。勝利を見届けるとマウンドで吠えた。セットアッパーのときはいつもクールにマウンドから降りる男が、大きな声で吠えた。

 この試合はそれぐらい大きな意味を持っていた。阪神をサヨナラ勝ちで下した勢いでナゴヤドームに乗り込んできたDeNA。かたやまさかの6連敗で青息吐息のドラゴンズ。追う4位と追われる3位、その差はたった0.5ゲーム。たとえCSがない今シーズンでも、8年ぶりのAクラスと8年連続のBクラスは天と地ほどの差がある。

 ドラゴンズにしては珍しいほど効率よく点を重ねて突き放しても、DeNAはまるでゾンビのように追いかけてくる。谷元圭介が捕まり、福敬登も喰われた。最後に敵の猛攻を退けたのは祖父江大輔だった。

 戦国時代の合戦で退却する自軍を守るため、敵の追撃を断つ役割を「しんがり」と呼ぶ。本来は負け戦のときに使う言葉だが、髭をたくわえ、鋭い眼光で相手を睨みつけ、大きく頰を膨らませて深呼吸し、長髪を振り乱して投げる侍のような祖父江の姿を見ていると、「クローザー」というより思わず「しんがり」と呼びたくなる。

祖父江大輔

「登板前に無駄な心配をしないと決めている」

 今年の祖父江はすごい。語彙力がなくて恐縮だが、本当にすごい。厳しい過密スケジュールの中、51登板は同僚の福に次いでリーグ4位(日本人選手に限れば2位)、ホールド数はリーグ2位、防御率1.88、与四死球7という数字は素晴らしいの一言(いずれも11月3日時点)。

 140キロ台のストレートと130キロ台のスライダーを駆使して抑える祖父江の最大の武器はコントロールと気迫だ。あの気迫はもはや殺気に近い。「週刊ファイト」井上義啓編集長風に言うなら「殺し」。祖父江の視線を見て、同じトヨタ自動車出身の正捕手・木下拓哉もマスク越しに「ソブさん気合入ってんなあ」と気を引き締めているという。

 コントロールについては、与田監督、阿波野、赤堀両投手コーチから「臆することなく勝負に行け!」と言われたことで、これまでのかわすピッチングではなくストライクでの勝負に徹することができているのだという。また、今シーズンの活躍の要因について、祖父江は試合前の気持ちの持っていき方の変化を挙げている。これまでネガティブに考え過ぎていたのを改めたというのだ。

「登板する前に無駄な心配をしないと決めています。投げる前に不安に支配されているようでは手応えのある投球ができるわけがない。もっとシンプルに自分らしくいつもの投球を、と」

 左腕の福、祖父江、豪腕ストッパーのライデル・マルティネスの勝利の方程式は「大福丸(大福マル)」と呼ばれ、6回終了時リード37連勝という耳馴染みのない記録を生み出した。火消しとして復活した谷元の活躍も印象的だ(その場合は「大福丸 with T」になる)。

 しかし、祖父江のこれほどの活躍を開幕前に予想していた人はどれだけいただろうか? 

 今年、勝利の方程式として期待されていたのは、前年にクローザーを務めた岡田俊哉、同じく前年の終盤にセットアッパーとして活躍した藤嶋健人、チームを去った無敵の左腕ジョエリー・ロドリゲスの穴埋めとして与田監督が自ら獲得した新外国人のルイス・ゴンサレスだった。

 だが、岡田と藤嶋は不調にあえぎ、ゴンサレスに至っては勝ちパターンでほとんど登板しなかった。そんな中、今年のドラゴンズを支えてきたのが、東京五輪延期によって日本にとどまったライデル、昨年に続けて好調を維持した福、大復活を遂げた谷元、そして祖父江の4人である。