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ドラゴンズを支える“大福丸” 祖父江大輔はコツコツ働く人たちのヒーローだ

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/11/05
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シーズン最後に今年初のヒーローインタビューを見てみたい

 祖父江は入団以来、懸命に投げ続けてきた。54、33、46、35、51、44、そして今年はここまで51。ルーキーイヤーからこれだけの数の試合にすべて中継ぎとして登板。打たれることもあったし、二軍に降格したこともあったが、大きな故障をすることもなく、ビハインドだろうがワンポイントだろうがロングリリーフだろうが、どんなシチュエーションでもマウンドに向かった。

「行けと言われればどんな場面でも登板します」

 コメントは新人の頃も今もまったく変わらない。上背がなく、球が飛び抜けて速いわけでもなく、球種も多くなく、野球エリートでもない。何一つチート能力がなく、ドラフトの指名漏れを繰り返してきた男がプロで見つけた生きる道。派手な活躍はないものの、いつもコツコツと準備をして、コツコツと登板数を積み重ねてきた。しかし、昨シーズンオフには年俸をめぐる騒動が巻き起こり、海外にまで飛び火してチームメイトからは「世界の祖父江」と呼ばれた。

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 懸命に働いても、なかなか会社や上司に評価されないという経験は誰にだってあると思う。地道にコツコツと上からの指示どおりにやっているのに認められない。腐りたくもなる。愚痴りたくもなる。コツコツやるのが馬鹿らしくなる。真面目に働く者よりも要領のいいヤツがチヤホヤされる理不尽な社会は、嫌になることがたくさんある。だけど、やっぱり本当に大切なのは、雑音に耳を貸さず、腐らず、不安に支配されず、いつもどおり準備を重ねて、周囲を見返すような結果を出せるかどうか。それに尽きるんじゃないだろうか。

 今年の祖父江がまさにそうだ。だから、与えられた場所で精一杯腕を振っている姿を見ているだけで胸が熱くなってくる。すさんでいた心が満たされる。きれいなはずのユニフォームが泥だらけに見えるときがある。今年背番号と同じ33歳になった祖父江はすべてのコツコツ働き続ける人たちのヒーローだ。

 祖父江の奮闘ぶりを誰よりもよく知っているのはチームメイトだろう。10月15日の対阪神戦。今シーズン初めて祖父江が捕まって3失点。だが、窮地が奇跡を呼ぶ。9回裏、高橋周平がスアレスの159キロをジャストミート。ドラゴンズにしては本当に本当に珍しい逆転サヨナラホームランをレフトスタンドに叩き込んだ。周平キャプテンのコメントは「ピッチャーの方々にすごく助けられてきたので、なんとかできて良かったです」だった。

 その後、絶対的クローザーのライデルが故障で離脱、福も谷元も疲れからか捕まることが増えてきた。満身創痍の「大福丸」は沈没寸前だった。この船が沈めばドラゴンズはBクラスに逆戻り。しんがりを任された祖父江の存在はドラゴンズの命綱と言ってよかった。

 船は挑み、船は傷み、すべての水夫が恐れをなして逃げ去っても、その船を漕いでゆけ、お前の手で漕いでゆけーー。入場曲にしているTOKIO「宙船」の歌詞のごとく、祖父江はいつもと同じく全力投球を見せてくれている。谷元も復調したし、福も涙の復活を遂げた。

 もし、もしもドラゴンズがAクラスに入ったら。筆者は今年初めてとなる祖父江のヒーローインタビューが見てみたい。隣には福と谷元にもいてほしい。なんならライデルもオンラインでつないでもいい。オンラインでの開催となったファンフェスではモノマネの新ネタを見てみたい。もちろん年俸は爆上げで頼みます。ドラゴンズファンが幸せなシーズンオフを迎えられるかどうかは、あと数試合にかかっている。大丈夫、祖父江大輔がいれば、大丈夫だから。

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